数学の問題を解くときに考えること(2)

前回の投稿から大分間があいてしまいましたが、
今回は、
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20100710
から始まった
「数学の問題を解くときに考えること」のシリーズを続けたいとおもいます。

このシリーズは2回でやめるつもりだったのですが、いろいろ書きたいことがでてきたので、
トラックバックいただいた「シカクロード別館」のブログ
http://sroad.blog45.fc2.com/blog-entry-803.html
でコメントしたように)
5〜6回程度は続ける予定です。


今回は、いくつかのサイトをご紹介して私の「感想」を述べることとしたいと思います。

A.「語学としての数学」(くるぶし(読書猿)さん)

数学にはネイティブはいない:「語学としての数学」完全攻略=風景+写経アプローチ
http://readingmonkey.blog45.fc2.com/blog-entry-94.html

数学にはネイティブはいない:「語学としての数学」完全攻略、その後
http://readingmonkey.blog45.fc2.com/blog-entry-95.html

くるぶしさんは、書籍や勉強法に関して、いろいろと名エントリーを残されていますが、本件については、正直違和感を感じていました。

入門書で「風景」という前置きをとりつつ、解答を「写経」せよというのが基本ですが、自分には正直無理だし、もし自分がこれをやるとなると、文字を写すということに全身全霊を集中させて、逆に数学的内容が頭に入らないのではないかと考えられます。
本当にこの方法で上手くいった人がいるのでしょうか?
(この記事には400を超えるはてなブックマークがついているのですが、その後これを実践して成功した人がいればご連絡くださると幸いです。)
そしてそれは「風景」という前置きがあっても大差がないのではないかと考えます。
風景を知っておくことは時に役に立つこともありますが(このシリーズの最後の方で述べる予定です)、それがすべてではありません。
特に、恐らく当該記事で対象となるような方が、最初に接するような問題でそのような「風景」とは関係のない無味乾燥な問題が多いのではないかと考えます。


私見ですが、数学の問題を解けるようになるには、問題を解くしかないと思います。つまり、ごく簡単な問題からでいいので、(小さな)成功体験を積み重ねる必要があるわけです。


あと、これは、あまり本質的ではないですが、英語にも日本語にも文字通りのネイティブはいません。つまり、生まれつき英語や日本語が話せる人はいないという意味です。
もちろん、ここでの「ネイティブ」とは、生まれてから何年も、何十年もずっと英語や日本語を読み、書き、聞き、話してきた人のことですが、そういう意味での、数学漬けという人ならもちろん数はごく少数ですが、確実に存在します。
例えば、京都大学加藤和也先生*1は、大学時代ノート1日1冊つぶしていたそうです。*2


以上いろいろ批判めいたことを申し上げましたが、選ばれている本については、

http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20100710
にも述べた
ポリアの本( isbn:4621045938 )等、いい本が選ばれていると思います。
また、「写経」自体についても、それが自己目的化しなければ、有効なのかもしれません。*3

B.数学の勉強の仕方(?さん)

2ちゃんねる纏めサイトアルファルファモザイク」です。
http://alfalfalfa.com/archives/397828.html


こちらの方が「解く」という行為を含んでいるもので、A.より効果的ではないかと思います。また、高校生・大学受験とターゲットを明確にしている点もよいと思います。


ただし、(当時はやっていなかったですが、今考えると)大学受験を目標にするならとにかく志望校の過去問題をなるべく早めに手に入れて研究すべきではないかと思います。
これは、アクチュアリー試験でも同じですが。


実のところ、このB.のリンク紹介だけして終わろうかとも思ったのですが、
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20091214
で上記A.についてコメントする予定と書いたことを思い出し、この際エントリーさせていただいたものです。

*1:美空ひばりの息子さん http://is.gd/erg05 とは無関係

*2: ご本人がおっしゃています。 http://www.s-coop.net/lifestage/backnumber/2004/2004_11/pdf/0411_02-03.pdf

*3:繰り返しになりますが、自分の場合は「写経」自体が自己目的化すると思うので違和感を感じています。

アクチュアリー記号のTeXマクロ

前回
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20100710
から始まった
「数学の問題を解くときに考えること」シリーズの途中ですが、今日は
アクチュアリー記号のTeXマクロ
というテーマでエントリーをしてみます。


(生保)アクチュアリー記号、特に連合生命の記号等は、TeXで表示するのが意外と面倒です。


アクチュアリー記号のTeXマクロは、私の知っている限り日本語では、


1.pomathさん
http://www5d.biglobe.ne.jp/~pomath/study/actuary/index.html


2.成川淳さん*1
http://homepage2.nifty.com/narukawa/overceil.txt


の2つしかなかった*2のですが、今回新たに3つ目が加わりました


それは、 [twitter:@lifeinssty] (hu)さんの、
http://space.geocities.jp/funasking/
です。*3


TeXマクロもさることながら、生保数理の公式集も(就業不能はこれからですが)かなり充実している*4と思われますので、特に生保数理を受験される皆様には、一度当該サイトをご覧になられることをお勧めいたします。


なお、英語では
MacKichan Software
http://www.mackichan.com/index.html?techtalk/v30/ActuarialMathSym.htm~mainFrame
のようなものもあります。


(参考)
「ブログ・Wikiにおける数式使用に関する考察」
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20080921

*1:TeXインストーラhttp://www.ms.u-tokyo.ac.jp/~abenori/mycreate/abtexinst.html 等を作られている東京大学数理科学研究科特任助教 阿部紀行先生が協力されたそうです。

*2:もう1つあるブログで公開しているのを見たことがあるのですが残念ながら閉鎖

*3: http://twitter.com/lifeinssty/status/18542091655 参照

*4:上記の成川さんのサイトにも公式集 http://homepage2.nifty.com/narukawa/insurance.pdf がありますが、それに勝るとも劣らないと思われます。

数学の問題を解くときに考えること(1)

今回と次回の2回(予定)で、Twitter上の投稿をきっかけに、アクチュアリー(試験)との少しだけしか関係ないかも知れませんが
数学の問題を解くときに考えること
について考えてみます。


きっかけとなった一連のTweetsは以下のとおりです。

(なお、最後のTweetに出てくるポリアとは
アクチュアリー(候補)の皆様には「ポリアの壺」で知られるあのポリアです。
http://d.hatena.ne.jp/gould2007/20070924
によると、問題の解き方について「Polyaの四原則」というのを残しているようでこれが当該書籍 isbn:4621045938 にも書かれているものと考えられます。)

0.はじめに

まず、個別の問題を解くこと自体が最終目的ではないことに留意すべきだと考えます。
最終目的は、例えば特定の試験(大学入学試験、就職試験、資格試験)に合格することであるはずです。
そこでは、
(1)一定の時間内に何問かを解かせる。
(2)必ずしも100点である必要はなく合格最低点が決まっている。(アクチュアリー試験の場合は60点)
という特徴があり、時には特定の問題を「解かない」ことが最終目的(合格)のための最適戦略である場合もあります。

また、試験の内容が記述式、つまり、解答に至るプロセスを示すのか(実は、採点官用の「演技内容」であり、実際の考え方のプロセスとは必ずしも一致しないことに注意する必要があります)、あるいはマーク式、つまり、解答に至るプロセスを示す必要はないのか、でも解き方が違ってくることがあります。

つまり、
全体の戦略がまず優先させるべきものであり、個別の問題を解くことは戦術にすぎない
ということになります。

もっとも、以上のような話は、何かの手段としてではなく、問題を解くこと自体に喜びを見出すパズル愛好者のような方*1には当てはまりませんが、そのような方は、以下に書くようなことは当然心得ていらっしゃると思います。

マーク式の場合の特有の解き方については、
例えば
アクチュアリー試験に役立つ知識と知恵
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20091208
での各リンクをご参照いただくこととして、ここでは記述式特に高校数学程度の問題を例にとって「戦術」面を考えてみたいと思います。

1.「解ける問題」であるとの認識

まず考えるべきことは、
この問題は「解ける問題」である
ということを認識することです。
現実には、必ずしも答えがない、あるいは、すっきりした形で解けない問題も少なくないことはお気づきでしょうが、試験で出題される数学の問題は
正しいやり方をすれば、数十分程度で解けることを意図して作られた「人工的な問題」
であるということです。
「人工的な問題」なので、出題者が意図した(数十分程度で辿りつける)ルートがあるはずであり、「(人工的な)問題を解く」とは、そのような、出題者の意図を探る心理戦ともいえると思います。

2.結論の予想

次に、結論を予想します。

(例題)
\tan 1^{\circ}有理数*2
(2006年度、京都大学入試問題理系後期)

まずこの問題が出されたとき、
「出題者は、『\tan 1^{\circ}有理数ではない無理数である)』という結論を期待しているんだな
と考えることです。
なお、他の教科だと、解答者をひっかけようとするポイントも用意されていたりしてそれを見抜く力も必要になることがありますが、数学ではそのような引っかけポイントは恐らく他の教科に比べて著しく少ないと考えます。

3.主役と第一幕の決定

更に、その結論に導くための主役(主な解法)と第一幕(つまり議論の出発点)を決めます
まず、無理数である(有理数でない)ことを証明する手段として考えられるのは背理法です。
つまり有理数である」ことを仮定して矛盾を導くことです。(\sqrt{2}無理数であることを証明する手段がそれです)

となると第一幕は、
\tan 1^{\circ}有理数とすると…」
となります。

4.脇役の選定

最後に、脇役、つまり、与えられた条件の中で使える他の道具を洗い出します。
この問題は大学入試問題なので、高校生が解ける問題です。
tanについて高校生レベルで知っていることはそれほど多くはありません
(1)tanの定義
(2)tanとcos,sinとの関係
(3)具体的なtanの値
\tan 30^{\circ}=\frac{\sqrt{3}}{3},\tan 45^{\circ}=1,\tan 60^{\circ}=\sqrt{3}
(4)加法定理
\tan(\alpha+\beta)=\frac{\tan \alpha+\tan \beta}{1-\tan \alpha \cdot \tan \beta}
(5)tanのグラフ
(6)tanの微分
程度です。
当然ですが、高校生が知らないことを使わないと解けない問題は大学入試では出題されません
したがってこのうちのどれか(あるいはその組み合わせ)で解けるはずです。

(3)で\tan 30^{\circ},\tan 60^{\circ}無理数*3であることから、「\tan 1^{\circ}有理数とする仮定と矛盾が導けないかと考えます。
\tan 1^{\circ}」と\tan 30^{\circ}または\tan 60^{\circ}結びつける手段として、(4)の加法定理が使えないかと考えます。
つまり、1^{\circ}を30(60)個加えれば30^{\circ}60^{\circ})であり、加法定理においては、加減乗除しか出てこないので、
(7)有理数同士の加減乗除はまた有理数となること
を思い出せば、
\tan 1^{\circ}有理数ならば、\tan 30^{\circ}または\tan 60^{\circ}また有理数になってしまう
ことを導けそうだとの考えに至ります。

5.まとめ

具体的な解答は、 [twitter:@nartakio] さんのページのものを拝借します。
http://math.iza-yoi.net/bot/kyoto/06ks-6.html


本件は、上記のようにアクチュアリー試験との関連性はそれほど高くないので今回だけにしようと思ったのですが、まだ書きたいことがいくつか(分割・ダウングレード、問題の置き換え、背景の把握)あるので、それは次回(以降)にいたします。

*1:かくいう私もその一人かも知れませんが

*2:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%89%E7%90%86%E6%95%B0 参照

*3:\sqrt{2}無理数の証明は中学3年で習うはずですが、それと同じ方法で\sqrt{3}無理数であることを証明することが可能です。

アクチュアリー(試験)と大学院

今日は
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20100615
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20100626
でご質問された高校生の方からのご質問と回答です。


これを基に
アクチュアリー(試験)と大学院
について考えてみたいと思います。
まず私自身は大学院に行かずにすぐに就職したので、そのことは念頭においてお読みくださるようお願いします。
また、以下保険数理を念頭に置いて話しますが、年金数理でも同様だと思います。


結論だけ先に申し上げると(突き放したような言い方になって申し訳ありませんが)
「どちらも可」
ということになります。


1.「大学の3年からであり、学部卒で就職するとしたら、就職までに受験できる機会は1回」ということと、大学院修士課程に進学すればこれが(最大)3回になることは、間違いないところです。


2.ただし、
大学院で学んだことが、アクチュアリー試験受験のための知識の増加に必ずしも直結するとは限らない
と考えます。
反論があるかも知れませんが、日本の大学でActuarial Science(「保険(年金)数理」)を研究されている先生方は、ほとんどいないであるといってよいと考えます。
金融工学や確率過程論等を研究されている先生方は少なくないのですが、金融工学と保険数理は重なっている部分もあれば全く異質な部分もあると考えます。)
金融工学等の知識は、アクチュアリーの業務にも損にはならないですが、それは保険(年金)数理業務のすべてではないし、試験にも直結しないものでもあります。

ましてや、金融工学や確率(過程)論等と関係ない純粋数学や経済学の、特に大学院で研究されるような内容は、アクチュアリー試験にはほとんど無縁と考えられた方が無難でしょう。ほとんどの先生方は、もちろんアクチュアリーとか全く意識せずにご自身のご興味の赴くままに研究をされているのだと考えます。

今までこのブログでは何度か述べているのですが、
(日本の)アクチュアリー試験に必要な数学力は、大学2年くらいまでの微積分、線型代数
であり、
大学院のカリキュラムではない
ことに留意する必要があります。

そのため(理系の)大学院を修了された方でも、アクチュアリー採用の試験でこれらの必要な数学力をクリアしていない(ためお引き取り頂いた)方はいくらでもいらっしゃいます。


3.時間についてですが、一般的にいうと、大学院生の研究時間<会社員の就業時間という不等式は成り立つと思いますが、特に保険会社等に入社したてのころは、アクチュアリー会の講座等の勉強の機会を与えてくれたり、試験前の仕事量を減らしてくれたりするなどそれなりの配慮をされることが少なくありません。


4.念のために申し上げますと、「アクチュアリーになるのに大学院はいらない」というつもりはありません
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20100626
でも書いたこととも重なるのですが、大学院にいながらでないとなかなか学べない事項は存在します。
もちろん、大学院に行かずに早めに「会社」に出る*1ことによって得るものもあると考えます。

結局、
大学院か会社かの選択というのは、経済学部か数学科かの選択のようなもの
で、大学4年間で学ぶ経済学(又は数学)に飽き足りないのであれば、大学院に進んでさらに究めるのも一法だし、保険会社(信託銀行、コンサル等)に就職して実務の中で学びたいということであれば早くに「会社」に出ることもまた一法だと考えます。


5.最後に、受験機会に関連して申し上げますと、(大学1年〜3年までの)3年かけて準備すれば、受験機会が1回であっても1〜2科目合格することは十分可能であると考えます。
ところで、

(1)3年次に合格科目がなくても、あるいは受けていなくても、アクチュアリー採用される可能性も
(2)アクチュアリー採用されなくても(一般の社員として入社しても)アクチュアリー採用より先にアクチュアリー正会員になることも

はたまた

(3)新卒で入った会社では芽が出なくても転職で逆転することも*2

全部起こり得る(実際に起こっている)ことなのです。


6.以上をまとめると
大学院に行くかどうかは、アクチュアリー試験合格の有利不利ではなく、自分の興味に従って決まればよい
と考えます。
(大変失礼な書き方になるかも知れませんが、)今の時点で考えてもしょうがない(3年後興味が変わる可能性のほうが大きいです)ので、大学3年になって改めて考えればよいのではないでしょうか。

以上

*1:「社会に出る」という表現が取られることが多いとは思いますがここではあえてこのように記すことにします。

*2:http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20100319http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20100322

SOA(Society of Actuaries)試験について

今回は前回
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20100704
取り上げたCERA(Chartered Enterprise Risk Actuary/Analyst)の流れで、
SOA(Society of Actuaries;米国(生保)アクチュアリー会
の試験について触れたいと思います。


本ブログでは、当然ながら日本のアクチュアリー試験の情報がほとんどすべてなのですが、日本以外の国とりわけSOA(Society of Actuaries;米国(生保)アクチュアリー会)の試験に関してコメントを求められることがあります。
私は、問題等は拝見したことがあるのですが、実際に受験したことがないため、どうしても外形的なアドバイスになっていました。
今回、実際に受験されている方(以下Aさん)から受験体験記のご提供をいただきました。今回は、それをAさんのご快諾をいただき、本ブログに転載させていただきます(Aさんのご確認は受けていますが、転載者による編集が入っていることはご了解ください)。
SOAの試験を考えられている皆様に少しでもお役に立てれば幸いです。

SOA試験の概要

体験記の前にSOA試験について簡単に述べておきます。
(詳細は
http://www.soa.org/education/exam-req/
等をご確認ください)

(a)ASA(Associate of the Society of Actuaries;日本の「準会員」に相当)

のためには、
前回
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20100704
引用した
twitterid:actuaryjp
さんが挙げてくださったもののうち1.〜4.の
(1) Exam P,FM,MFE,C
と6.の
(2) VEE(Validation by Educational Experience) Economics
の他、
(3) Exam MLC(Actuarial Models–Life Contingencies Segment)
(4) VEE Corporate Finance
(5) VEE Applied Statistics
(6) Fundamentals of Actuarial Practice (FAP) e-Learning Course
(7) Associateship Professionalism Course (APC)
が必要になります。


VEEについては、大学の所定の講座
http://www.soa.org/files/pdf/edu-vee-dir-approved-courses.pdf
(588ページ!のPDFファイルなので要注意)
を取得することが求められますが、
日本のアクチュアリー会員の場合は(2)と(5)を、証券アナリスト協会検定会員の場合は(2)のマクロ経済学(ミクロは別途履修が必要)と(4)をクリアできます。(つまり、アクチュアリー会員+証券アナリストであればVEEはクリア)
http://www.soa.org/education/exam-req/resources/edu-vee-approved-courses.aspx
(2010/7/8 この項修正)


試験は多肢選択式です。以下の体験記にあるように(日本以上に)大量の問題が出題されます。

(b)FSA(Fellow of the Society of Actuaries;日本の「正会員」に相当)

準会員の要件に加え
(1)5コース別の専門科目2科目の試験
(2)5コース別のモジュール(e-Learning)
(3)各コース共通のDecision Making and Communication (DMAC) Module
(4)Fellowship Admissions Course (FAC)
が必要になります。

(c)日本のアクチュアリー試験との比較等

下の体験記にもありますが、CBT(Computer Based Test)の各科目は年4〜5回、それ以外の科目でも年2回(5月と11月)にあり受験機会が多いのは日本のアクチュアリー試験よりよい点ですが、半面e-Learningを含めた科目数が多くかつ1科目あたりの受験料が高い点は要注意です。

現在、SOAの会員になっている日本人は、
https://www.actuarialdirectory.org/solutionsite/default.aspx?tabid=123#_ctl0__ctl0__ctl0_tbl
の検索結果によると*1正会員・準会員合わせて50人に満たないですが、これらの方の"Organization"を中心に
評価されるところでは評価される
ものと考えられます。


前置きが大分長くなりましたが、ここからAさんの受験体験記の転載です。

1.SOA試験のよい点と注意点

SOA試験のよい点と挑戦する場合の注意点です。
この試験は最初の2科目はCBTで*2受験料も各175ドルと気軽に始められる(CBT試験なので、10日間くらいの受験可能期間がExam Pは来年は年5回、1月・3月・5月・7月・9月にあり、Exam FMは年4回、2月・5月・8月・12月にある)のですが、じつは、後半に行くにつれ、ちょっと蟻地獄のようなところがあります。
通信教育を受けないと資格がもらえないのですが、この通信教育にも試験があります。ので、見かけより試験の数は多いです。しかも、後ろのほうのテストほどやたら受験料が高くなります。例えば、ASAになるための要件にある通信教育の最後にオンラインで提出する論文試験の受験料は1,200ドルです。(ゼロの数は2つです。間違えていません)
FSAになるための試験の受験料も非常に高価で、2科目あって一科目の受験料が 950ドルです。

というわけで、ストレートにいっても最後にFSAになるまでにSOAに8,000ドル以上払い込むことになります。そのあとの年会費も高いです。補助をくれそうな欧米系の保険会社に所属せずに受け続けるのは辛そうです。他の業界には知られていませんし、(転載者追記US)CPAのようにとっておけばどこの業界でも役に立つことがある、という資格ではないことは確かです。

2.Exam PとExam FM

どちらも、Society of Actuariesが公開するサンプル問題をすらすら解けるようになれば、合格は間違いなしとされています。逆に、3時間で30問(Exam P)と35問(Exam FM)と1問あたり5−6分しかないので、解法をその場で考えこんでいる暇はありません。*3

Exam Pのサンプル問題 (最初のほうはすごーく簡単だけど、だんだん難しくなります。)

http://www.soa.org/files/pdf/edu-2009-spring-p-ques.pdf

Exam FMのサンプル問題

http://www.soa.org/files/pdf/FM-09-05ques.pdf

なので、それを2ヶ月後のゴールにして、たくさん発売されているこの試験に特化した受験参考書の中から評判のいいものを選びました。
Actuarial Discussion Forumという掲示板を参考に、選んだのは、ASM社のStudy Manual。Exam P用とExam FM用をそれぞれ買いました。スタディマニュアルというのは、試験範囲の簡単な解説と、頻出問題パターンの解法、演習問題が入った参考書です。

ところが、ASM社のExam FM用のは確かに、素晴らしいマニュアルで、これ一冊でよかったのだけど、著者が異なるExam Pのほうが自分には難しすぎました。ポーランドから来たらしい博士が書いてるのだけど、英語の文章もよくわからないし、オリジナルの模擬試験も全然解けない・・・。

そこで、Exam Pに関しては「一番易しい、易しすぎるかも」という評判のYufeng Guoという中国人の書いたStudy Manualに鞍替えすることにし、即購入、即ダウンロードして、こちらで勉強を再開しました。

確かにこっちは易しかったのです。Guo(グオ)さんは中国で弁護士をやっていたのだけど、アメリカに来ることになって、それから言葉の壁の少ないアクチュアリー試験に挑戦したのだそうです。なので、このマニュアルの売りの1つは「簡単な英語」です。「確率統計を履修してなくても大丈夫」という宣伝にも惹かれました。

おかげで、指数分布とポワソン分布とガンマ分布のつながりや、負の二項分布と幾何分布の関係なんてのがわかるようになりました。 便利な電卓の機能や、時間節約のための裏技もいっぱい載っていて、本当にお得感のあるマニュアルでした。

で、マニュアルを読みおえ、サンプル問題も全部解いてるうちに3周目にはPは9割以上、FMは100%、自信をもって正答できるようになりました。

Exam FMとExam Pは茅場町のプロメトリックのPC上で受験。レベル感はもちろん、サンプル問題と同じでした。
この2つの試験は、当日にpreliminary resultといってpass かfailか教えてもらえます。preliminary resultがpassなら間違いなく合格。failならものすごく小さい割合で合格している可能性もある、とのことです。

3.数学の参考書について

高校の参考書から再出発することとし、高校の参考書を本屋で端っこから確認することにしました。数Iは見ればわかった。数IIがやっぱりあやしい。で、数IIからやりなおすことに。
以下が、具体的な試験勉強に入る前の約半年間でやった参考書たちです。
基本的に例題は全てなぞり、演習問題は全部ときました。

高校の数学

・坂田アキラの数IIの微分積分が面白いほどわかる本(転載者注:isbn:4806127396

・坂田アキラの三角関数・指数・対数が面白いほどわかる本(転載者注:isbn:4806128325

・坂田アキラの数IIIの微分積分〈極限・微分編〉が面白いほどわかる本(転載者注:isbn:4806122939、パワーUP版は、isbn:4806132357

・坂田アキラの数IIIの微分積分積分編〉が面白いほどわかる本(転載者注:isbn:4806123250、パワーUP版は、isbn:4806132365

高校の数学と大学レベルの数学との架け橋

石村園子「やさしく学べる微分積分」 ←本当にやさしく学べた!!(転載者注:isbn:4320016335

石村園子「やさしく学べる線形代数」(転載者注:isbn:4320016602

石村園子「やさしく学べる統計学」(転載者注:isbn:4320018087

石村園子「やさしく学べる微分方程式」←シリーズが気に入ったので、ここまでやったが、後で考えるとExam PとExam FMの試験範囲とは関係なかった・・・。(転載者注:isbn:4320017501*4

・マセマ「スバラシク実力がつくと評判の微分積分キャンパス・ゼミ」←この時点にはちゃんと分かるようになった(転載者注:isbn:4944178204

大学レベルの確率・統計

東京大学教養学部統計学教室「統計学入門」←統計学の話が読み物として面白いと思い始めた!ただし、試験まで時間がなくなってきたので、この本の演習はやらず。*5

・小寺 平治「明解演習 数理統計」←Exam Pの試験範囲の77ページまでやった。明解っていうけど、結構むずかしいです・・・。*6

途中、友達に励ましの言葉をもらったので、何度も読み返せるように手帳に書きました。

「数学は運動神経だ!昨日走った道をまた走ればいい。するとだんだん速くなる。同じことを10回やると、11日目には新たな道を切り開けるよ。」

4.MLCの感想

3科目目はMLCを受けることにしました。
結局、2回受けるはめになったのですが、まず1回目のあとにメモった感想がこちら。

SOAが理解度を試験合格という形で評価する以上、ちんたら教科書の証明問題なんかで時間をつぶさずに、さっさとスタディノートのサンプル問題(=ほぼ全て過去問282題)の演習を開始すべし。理解するだけでなくて、やっぱり相当練習をしないと、3時間30問の問題はきつかった。

・ 試験自体は、具体的な数値を問う計算問題がほとんど。で、サンプル問題をやってみると保険数理って実はシンプルな話なんじゃないの?ということがわかる。半分くらいの問題が、金利と確率で割り引くともらうお金と払うお金は一緒でなくっちゃね、という式を組み立てるだけっぽい。でも、本番でイチからそれをやる時間はないので、やっぱり頻出公式は覚えないといけない。

・ 私のように時間をかけすぎてはいけないけれど、でも、教科書Models for Quantifying Risk は結構わかりやすくて良かった。特に「死力」の説明が日本の教科書とは違うやり方で超わかりやすい。生命表の世界だけでなく、いろんな確率分布にも応用で
きる感じ。今度、暇なときに紹介してみようと思います。

・ GuoさんのMLCマニュアルはいまいちだった。良かったのはPのマニュアルだけ。

・ 東京の試験会場はボランティアの人が少人数の受験者のために運営してくれている。開場時間の遅れなど多少のことがあっても感謝の気持ちで受けとめよう。

その後、2回目は、ASM社のマニュアルを新たに買って便利な公式をいくつか仕入れ、サンプル問題を30問ずつ3時間、模擬試験のように時間を測ってやることでスピードアップを図ったのが功を奏したように思います。


参考サイト
http://www.beanactuary.org/

Actuarial Outpostというサイトの掲示
http://www.actuarialoutpost.com/actuarial_discussion_forum/index.php

以上

*1:シフトキーで複数指定が可能とありますが、FSAとASAで別々に検索しないと表示されない模様なので要注意です。

*2:転載者注:Exam PとExam FMのことと考えられます。その他、Exam CもCBTです

*3:転載者注:これは日本のアクチュアリー試験も同様です。

*4:さらに転載者注:微分方程式の知識は、日本のアクチュアリー試験だと生保数理では必要になってきます。微分方程式は、現在の高校数学では範囲外になっていますが、これはいかがなものかと思います。

*5:転載者注:この本は日本のアクチュアリー試験の数学の指定教科書です。 http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20090929 参照

*6:転載者注:この本は日本のアクチュアリー試験の数学でよいといわれている本です。ただし、日本のアクチュアリー試験の観点でいえば、問題を選択して取り組む必要があります。SOAの試験でも同様と考えます。 http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20090929 参照

CERA(Chartered Enterprise Risk Actuary/Analyst)について

今回は [twitter:@actuaryjp] (Yosuke Fujisawa)さんがReTweetされた

(英国アクチュアリー会が「CERA」資格付与を認められた)
というTweetを契機に(前から取り上げようとおもっていたのですが)、各国共通のERM(Enterprise Risk Management)資格になりつつある
CERA(Chartered Enterprise Risk Actuary/Analyst)
をとりあげます。


まず、 @actuaryjp さんが過去にCERAについてTweetsを残されていますのでそれを引用します。


以下上記のTweetsに何点か補足し、日本におけるCERAに関して私の「予測」を述べます。

なお、CERAは日本ではERM委員会
http://www.actuaries.jp/comm/erm.html
が準備を進めている模様ですが、私はERM委員会とは無縁です。
以下は、純粋に私見及びそれに基づく「予測」であり、日本アクチュアリー会及びSOA(Society of Actuaries:米国(生保)アクチュアリー会)並びにその所属法人各社等の見解を表わすものではないことを念のためにお断りしておきます。


(1)
CERAはもとともとはSOAで認定していた資格で、Chartered Enterprise Risk Analyst の略でした。
「8. APC:準会員」(Associateship Professionalism Course)とあることから、レベルとしては準会員相当のものであると考えられます。*1
ただし、リスクマネジメントに関する独自の科目が存在するので、例えSOAの正会員であっても即CERAとなれるわけではありません


(2)
上記Tweetsでも引用されている
http://www.actuaries.jp/info/091125_Global_CERA_credential.pdf
にあるように、この資格を
Chartered Enterprise Risk Actuary
として各国共通のものにしようというのが今回の動きです。
英国アクチュアリー会はそれに(SOA以外では)一番乗りしたことになります。



(3)
さて日本では、2011年度にもCERA資格を付与できるよう動いているとのことですが、どのようなものになるかを考えてみます。


(a)まず、SOAのCERAの各カリキュラムのうち

1. Exam P(確率)
2. Exam FM(金融数学)
3. Exam MFE(金融モデル)
4. Exam C(モデリング
6. VEE Economics(経済)

の各科目については、現行の1次試験の各科目で(ほぼ)カバーできていると考えます。*2


(b)また
「8. APC:準会員(Associate)になる為の研修」についても、現在のプロフェショナリズム研修でカバーされていると考えます。
(今のプロフェッショナリズム研修は、準会員の段階で(2次試験に受かっていなくても)受講可能)


(c)となると残りは、

5. Exam AFE(ファイナンスリスク管理
7. Operational Risk Module(オペリスク)

になります。SOAでは、前者が試験、後者がe-Learningとなっていますが、日本で、もし、これらの1科目でも試験にするとなると、受験資格は最低でも準会員以上になると思いますが、特に初回に受験者が殺到することが予測されます。(もちろん試験であれば私も受験しに行きます。)

正会員が試験監督を分担している状態で、こちらの方に受験者が取られると12月の試験開催が支障が出る可能性も懸念されます。
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20091116 もご参照)

また、この試験を通常の資格試験(12月)とは分離開催ということも考えられますが、その場合でも年間スケジュールの面から相当の調整が必要と予想されます。


(4)
以上のことから、
日本のCERAは
1次試験5科目合格(準会員)+ファイナンスリスク管理・オペレーショナルリスクの講習会(研修)
のような形になるのではないかと「予測」しています。

また、http://www.actuaries.jp/info/091125_Global_CERA_credential.pdf
では、「早ければ2011年度」とあるので、当然ながら2012年度以降にずれ込む可能性も十二分に含んでいます。


なお、繰り返しになりますが、以上はERM委員会とは何の関係もない一会員の「予測」ですのでその点は十分ご注意ください。

<参考URL>

A. CERA - The Chartered Enterprise Risk Analyst Credential
http://www.ceranalyst.org/

B. SOA sites
(a) CERA Designation
http://www.soa.org/library/newsletters/expanding-horizons/2007/april/pub-cera-designation.aspx

(b) Chartered Enterprise Risk Analyst - Requirements
http://www.soa.org/education/exam-req/edu-cera-req.aspx

*1:SOAではもちろん正会員向けプロフェッショナル研修も存在します。正会員になるためには(試験と)準会員向けの研修を受けて準会員になった後、(試験と)正会員向けの研修を受けることが必須です。

*2:3. Exam MFE(金融モデル)については少し怪しい部分もありますが、必要ならば会計・経済・投資理論の範囲を拡充すれば対応可能だと考えます。

今年度のアクチュアリー試験要領

日本アクチュアリー会のWEBサイト
http://www.actuaries.jp/examin/info.html
今年の試験要領が公表されました。


平成22年度の試験日程は以下の通りです。

平成22年12月24日(金)

9:30〜12:30

損保数理
生保1・損保1・年金1

14:00〜17:00

数学

12月27日(月)

9:30〜12:30

年金数理
生保2・損保2・年金2

14:00〜17:00

生保数理

12月28日(火)

14:00〜17:00

会計・経済・投資理論

今年の1次試験の特徴としては、
1.数学のモデリングの試験範囲から線形計画法*1が正式に削除

2.会計のテキスト 桜井久勝著「財務会計講義」が10版→11版(isbn:4502225800)に更新
の2点が挙げられます。

特に、1.線形計画法については、これまでのアクチュアリー試験では1度も出題がなかった(年金数理人会の試験では1度だけ出題事例があり)のですが、正式に出題範囲から外れたことで受験者の皆様には、精神的に大分楽になったのではないかと考えます。

なお、
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20091207
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20080815

http://twitter.com/actuary_math/status/12281601520
http://twitter.com/actuary_math/status/4002315096
http://twitter.com/actuary_math/status/17408576604
もご参照ください。
(6/30 20:53JST イタリック部分追加)


(7/4 さらに追記)「線型」と「線形」については、http://twitter.com/ITTA_kun/status/17420452978
もご覧ください。

*1:テキストの表記そのまま。個人的には「線型」とすべきと考えています http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B7%9A%E5%9E%8B%E6%80%A7 http://blog.goo.ne.jp/makoto_hagiwara/e/8c0875029e38477993eea3a4769ab197/?ymd=200702&st=0 等も参照。