「不幸の定量化」に関する一考察

今回のきっかけは、
ブログ「404 Blog Not Found」
http://blog.livedoor.jp/dankogai/
の作者として有名な小飼弾さんがTwitter
http://twitter.com/dankogai/status/10018231854
で書かれた

やはり @p_hal と @totodaisuke を巻き込もう。保険って「不幸プットオプション」だし<@mabu_jp 統計とってVaRみたいなものを考えればいいのだろうか。99%幸せを実現するための費用が幾ら。99.9%幸せはいくら。とか。<不幸を定量化するには?

によるものです。


「保険って『不幸プットオプション』」というのはまさにそのとおりです。
ただし、@p_halこと出口治明さん(ライフネット生命社長)と@totodaisukeこと岩瀬大輔さん(ライフネット生命副社長)*1には大変申し訳ないのですが、
このブログの主な読者であるアクチュアリーを目指す皆様は、お二人よりは定量化」(つまりオプション料算出その他)に深くかかわっている(又は今後深くかかわっていくことになる)
と考えられるので、「不幸の定量化」はそのための思考訓練の1つになりうるのではないかと考える次第です。


Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%AB%E3%83%9F%E6%8E%A8%E5%AE%9A
によると

フェルミ推定(-すいてい、Fermi estimate)とは、実際に調査するのが難しいようなとらえどころのない量を、いくつかの手掛かりを元に論理的に推論し、短時間で概算すること。

とあるのですが、今回試みるのも「フェルミ推定」の一種だと考えられます。


なお、念のために申し上げますが、このブログでリフレ(リフレーション)やBI(ベイシックインカム)の是非を論じる予定はありません*2
あくまでも定量化」・「フェルミ推定」の訓練だとご理解ください。


さて、前置きはこのくらいにして、まず、日本国民のどの程度が「不幸」と感じているかを見ます。
平成20(2008)年度「国民生活選好度調査」(国民の意識とニーズ)
http://www5.cao.go.jp/seikatsu/senkoudo/senkoudo.html

「問6 あなたは生活全般に満足していますか。それとも不満ですか。(○は1つ)」
http://www5.cao.go.jp/seikatsu/senkoudo/h20/20senkou_08.pdf
の答えでは、2008年時点で
「3 どちらともいえない」と答えている人が24.2%
「4 どちらとといえば不満である」と答えている人が14.1%
「5 不満である」と答えている人が5.6%
います。
このうち4と5の全員と3の半分が「不幸」とみなすことにすると、3割強が「不幸」と感じていることになります。
(24.2÷2+14.1+5.6=31.8%)


次に、世帯の所得金額と不幸の関係を見ます。
厚生労働省「平成20年 国民生活基礎調査」の「II 各種世帯の所得等の状況 2所得の分布状況」
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa08/2-2.html
によると
世帯の所得金額が
「100万円未満」の世帯が5.9%
「100万円以上200万円未満」の世帯が12.6%
「200万円以上300万円未満」の世帯が12.8%
となります。
この合計が31.3%で上記の比率とほぼ一致します。

人生の不幸は2種類しかない。金の無い不幸と、金のある不幸だ

は、ドラマ「ハゲタカ」
http://www.nhk.or.jp/hagetaka/
の有名な科白ですが、
ここでは「金の無い不幸」だけを考え
世帯収入300万円未満の世帯の世帯収入が「300万円以上400万円未満」になれば「不幸」が解消される
純化することとします。


森永卓郎さんの「年収300万円時代…」(isbn:4334783554)と同じような数字*3が出てしまいましたが、恐らく偶然でしょう。


それはともかく、日本全国の世帯数は、
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa08/1-1.html
によると「4795万7千世帯」なので、ここでは「4,800万世帯」とし、
1.「100万円未満」の世帯に300万円
2.「100万円以上200万円未満」の世帯に200万円
3.「200万円以上300万円未満」の世帯に100万円
支給する場合のコストを算出すると、
4,800万世帯×(5.9%×300万円+12.6%×200万円+12.8%×100万円)
≒27兆円

となります。


この金額ですが、
小飼さんのブログのエントリー「ベーシックインカム 一番かんたんな方法」
http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/51412308.html

飯田泰之の十八番、「日本の潜在経済成長率は2%はあるはずだ」の+2%をターゲットとし、それと実績(-2.1%)との差、4%程度4%程度の政府紙幣を発行し(中略)その額総額24兆円(中略)この程度はリフレ派経済学者が普通に唱えている数字だ。

(太字引用者)
というのとほぼ同程度の額になっているので、あながちおかしな水準でもないと考えられます。


このような手法は、使い方を誤ると、
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20100224
でとりあげたBean Counterにも通じかねないのですが、
おおよその量や方向性を掴んでから、更に計算を細かくしていく
という考え方自体は、アクチュアリーの業務においても無駄ではないと考えられます。*4
アクチュアリー試験においても、答えのおおよその方向性を掴むことの重要性を前
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20080814
に述べたところです。

*1:岩瀬さんについては、「アクチュアリー試験のカラクリ」 http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20100217 に続いて2度目ですが…

*2:Twitterでも

*3:森永さんの主張の是非をここでは論じません。かつてTwitterで少しだけ触れたことはありますが。

*4:細かい計算を全く無意味な方向に積み重ねることのないように注意したいものです。もちろん自戒を込めて。