アクチュアリー試験のための数学の参考書・問題集

「生保数理(定常人口)についての問答」シリーズの途中なのですが、
今日は
アクチュアリー試験のための数学の参考書・問題集
というテーマで考えています。


私の立場は(繰り返しになりますが)
(a)唯一お薦めしているのは、過去問題集
(b)過去問で必要とされる事項を判別できれば、あとは自分に合う(もちろん出題範囲に合う)参考書・問題集に当たればよい
というものですが、(a)の具体的な書名を挙げてほしいという声もあるので、私が目を通した(持っていないものも含まれます)ものを何冊か列挙し、それらの注意点などを述べたいと考えます。


念のため申し上げますと、
(ア)確率・統計の本は数多くあり、ここに挙げた本以外にもアクチュアリー試験に適した本が存在する可能性はあります。
(イ)ここに挙げた本もその他の本も基本的にはアクチュアリー試験のために編纂されたものではないため、過去問との照合が一層重要になることに注意しましょう。
(ウ)以下の視点は、あくまでもアクチュアリー試験数学に関するものであって、例えば、確率論・統計学を専攻される場合には全然違った視点になるのでご注意ください。


(1)黒田 耕嗣「生保年金数理〈1〉理論編」(培風館isbn:4563011339
日本大学の黒田先生は、アクチュアリー試験の指導もされており、本書はある程度アクチュアリー試験を意識したものとなっていると考えます。
前半では微分積分の基本事項の整理(ガンマ分布とベータ分布など)もされています。
確率・統計の必要な分野がコンパクトにまとまっていると考えますが、例えば適合度の検定
http://actuary.upthx.net/pukiwiki/index.php?1.1.2.2.3.%A5%AB%A5%A4%C6%F3%BE%E8%CA%AC%C9%DB%A4%CB%BD%BE%A4%A6%C5%FD%B7%D7%CE%CC
などが含まれていないのでそれらについては適宜補完が必要です。


(2)小寺 平治「明解演習 数理統計」(共立出版isbn:4320013816
過去問でも類題の出題率が高いとされ受験者には評判の高い1冊です。
ただし、あるときこの本を見せてもらったところ、アクチュアリー試験に出題の可能性が十分あるものが3分の1程度だったということがありました。
したがって特に演習問題の厳選が必要になると考えます。
http://actuary.upthx.net/meikai.csv
に、そのとき作ったリスト(CSV形式にしています)を、ご参考までにアップしておきます。
今回このリストの見直しは、行っていないのでその点はご了解ください。


(3)吉原 健一ほか共著「演習 確率・統計」(培風館isbn:4563008443
上記(1)と同じ会社が出している確率・統計の演習書です。アクチュアリー試験のサポートをやっていたときにある程度問題がまとまっていると思って買った本で、確率・統計の問題演習が一通り可能ですがこの本にしても余計な部分がある(上記(2)よりは多くないと考えますが)ので適宜取捨選択が必要になってきます。
また、この本では、標本の分散の定義が他とは違っており(不偏分散を「分散」といっている
http://actuary.upthx.net/pukiwiki/index.php?1.1.2.1.4.%C9%B8%CB%DC%CA%BF%B6%D1%A1%A6%C9%B8%CB%DC%CA%AC%BB%B6%A1%A6%C9%D4%CA%D0%CA%AC%BB%B6%A1%A2%CD%AD%B8%C2%CA%EC%BD%B8%C3%C4
参照)、いくつかの統計的検定・推定の式が違っているので要注意です。


(4)児玉 正憲「基本数理統計学 (経済の情報と数理)」 (牧野書店) isbn:4795200831
やや古めの本で、かなり前に見た記憶があるだけなのですが、確率・統計の基本から少し進んだ部分まで一通り網羅されているという印象でした。当時の過去問題では何題か類題の出題があったと思います。


(5)竹内 啓「数理統計学―データ解析の方法」(東洋経済新報社isbn:4492470042
大昔、数学が数学1(確率)、数学2(統計)と分かれていたときの統計の参考書です。
今や中古でしか手に入らないはずであり、まさかこのような本を使われている方はいらっしゃらないと思いますが、当然ながら(?)アクチュアリー試験向けではありません。今の試験制度になる直前に数学2が激烈に難しかったことがあるのですが、その時代であれば利用価値があったのかも知れません。


(6)国沢 清典 (編)「確率統計演習1・2」(培風館
isbn:4563008095isbn:4563008109
指定の演習書ですが・・・
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20090713
のコメント欄をご覧ください。


(7)P.G.ホーエル「入門数理統計学」(培風館isbn:4563008281
指定の教科書ですが、ざっと見た限りはアクチュアリー試験の数学を無理にこの本で勉強する必然性はないという印象でした。


(8)東京大学教養学部統計学教室 (編集) 「統計学入門 (基礎統計学) 」(東京大学出版会isbn:4130420658
指定の教科書で、これもちゃんと見ていないのですが、アクチュアリー試験の観点からは、(7)よりはよいと考えます。


(9)東京図書(編集)「詳解 大学院への数学―理学工学系入試問題集」(東京図書)isbn:4489003897
姫野 俊一(他)「演習大学院入試問題〈数学〉I、II」(サイエンス社
isbn:4781908373 isbn:4781908381
かつては、大学院の入試問題から出題されたこともあったので、一応リストアップしてみました。今はそのような問題は減っているので利用価値は少ないと考えられます。


どの本であっても、アクチュアリー試験という観点では、過不足がある点には注意しましょう。
例えばこれらの本の大半で、対数正規分布
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20081119
が掲載されていません。


アクチュアリー試験研究WIKI
http://actuary.upthx.net/pukiwiki/
では、過去問に出ているところを中心に網羅したつもりなので、必要に応じてご活用ください。

(2009/11/11注記 http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20091111 に数学の基礎知識の参考書をアップしました。)