(本文)
昨日
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20100216
アクチュアリー試験の合格発表がありましたが、その試験を受験されたライフネット生命保険副社長の岩瀬大輔さんがその結果を
http://twitter.com/totodaisuke/statuses/9215792804
と記されました。
これを受けて「文系にはハードルが高い」その他のRetweetされている方が何人かいらっしゃるようです。
まず申し上げておくべきことは、
文系の方でもアクチュアリー試験に合格している例はそれほど珍しい*2ともいえない
(もちろん決して大多数ではないですが)
ということです。
思いつく限りでも
(例1)
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20090220
で取り上げた文系学部から正会員になった例
(例2)
同じく
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20090220
で取り上げた1次試験4科目に合格されているmassaraさん
http://actuary.blog34.fc2.com/blog-category-1.html
(2010/2/17 21:17(JST)注 今、http://actuary.blog34.fc2.com/blog-entry-60.html をみると今回の試験で更に1科目合格して4科目になっているので訂正いたしました。)
(例3)
アクチュアリー会の公式Webサイトに出ている
http://www.actuaries.jp/actuary/message12.html
法学部出身のTさん
(例4)
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20100129
にとりあげた文系でアクチュアリー採用されたKさん
(例5)
Twitterを非公開にされていますのでIDは出せないですが、文系で2科目合格し今年就職活動をされる方もいらっしゃいます。
といった具合です。
ちなみに、アクチュアリー試験のQ&Aでも
http://www.actuaries.jp/examin/faq.html#link7
Q7:文科系出身でも正会員になれますか。
A7:もちろんです。文科系出身の正会員も数多くいます。
とあります。
また、
http://commutative.world.coocan.jp/blog2/2010/01/post-499.html
によると
岩瀬さんは「生命保険のカラクリ」の中でも
司法試験が最難関の国家試験だと思っていたが、生命保険の仕事に関与するようになって、実は最難関の国家試験は、アクチュアリーであると知った
と書かれておられるようで(これについては次の版で「訂正」*3してくださるそうです。)、
さきほどのTweetに続くTweet
http://twitter.com/totodaisuke/status/9215851109
でも
絶対、司法試験より、難しい。
とされていますが、「相対」的なものにすぎないのは言うまでもないでしょう。
岩瀬さんの中では「アクチュアリー>司法試験」であることは十分理解致しましたが、アクチュアリー試験に1科目でも合格している方に聞くとまず間違いなくほぼ全員から「アクチュアリー<<司法試験」という答えが帰ってくると思います。
それでは、
なぜ、アクチュアリー試験は、人によっては「司法試験より難しい」と評される
のでしょうか?
それに答える前にアクチュアリー試験の仕組みについて簡単にふれておきます。
◎年1回(例年:12月24日以降3日間*4)
◎1次試験5科目(数学、生保数理、損保数理、年金数理、会計・経済・投資理論)に全部合格すると2次試験2科目(生保、損保、年金のコース別に専門科目2科目)の受験資格が生じる
◎1次試験はすべてマークシート方式。まぐれ当りの要素がある一方で、考え方があっていても計算ミスで0点になる可能性もあります。
◎各科目は基本的に6割取れれば合格です。
◎受験資格は大学3年次以上(過去はで、もちろん文系・理系で受験資格に制限はありません。
◎過去問は有料だがすべて公開されています。
◎合格率は各科目概ね10%〜20%程度ですが、特に1次試験は年による難易度の差が激しく、40%台の翌年に10%前後になったりすることもあります。
◎また、税理士試験と同様各科目の合格実績は(会員である限り)何年でも蓄積されます。
◎試験では普通の電卓(√機能付き)しか使用不可(関数電卓やポケコンは使えません)。
以上を踏まえてアクチュアリー試験の難しい点について触れると以下のとおりだと考えます。
●試験が年1回であり、難易度の上下が激しいため、実力があっても運が悪いと1科目合格するのに数年かかることがあること
●基本的には働きながらの受験であり、学習時間の確保が課題になること
●指定の教科書が必ずしも分かりやすいとはいえないこと。教科書で躓いた場合にそれをカバーする参考図書が少ないこと。
●予備校や塾などがほとんど存在しないこと
さて、そのようなアクチュアリー試験に合格するためにはどうすればよいでしょうか?
また岩瀬さんの(昔の)Tweet
http://twitter.com/totodaisuke/status/7027265440
からの引用ですが、
とあります。
(太字は引用者)
ここでいう「微分積分」とは大学で習う微積分ではなく、高校3年の微積分のことです。(以下に述べますが、大学の微積分で生保数理の受験に必要な知識はテーラー展開と(簡単な)微分方程式の解法くらいです。今回の問題は私も見ましたが「微分積分を使う問題」の大半は高校数学IIIレベルでした。)
また、数学では大学教養課程で習う線型代数のさわりの部分も必要なのですが、生保数理の試験では不要です。
前
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20090830
に基礎事項(<備考>参照)を挙げたのですが、
これをマスターすればよいと思います。(◎が高校数学の範囲を超える部分です。)
(とりあえず)生保数理に必要な限定すれば★のついた部分で十分です。
大学入試のようなひねった問題が解ける必要は全くなく、基礎的な計算が速く確実にできるようになれば十分です。
具体的な演習書については、
例えば
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20091111
をご覧ください。
そうして基礎を身につければ過去問演習です。最初の段階では何も見ずに解ける必要はまったくなく、どのような公式が出るかを押さえ、その公式が分かっていれば計算して答えを出せる状態を作りだします。このとき計算でパソコンや関数電卓を使ったりせず普通の電卓で最後まで答えを出すことをお薦めします。
そしてそこで身につけるべき公式をまとめ、直前期に一気に記憶することになります。
生保数理の場合は教科書(二見隆氏「生命保険数学 上・下」)の演習問題が充実しているのですが、逆に充実し過ぎていることが問題で、試験の観点からは不要な問題が一杯あるのでそれを取り除くことがポイントになります。
さて、これらを踏まえ合格するのにはどの程度の時間が必要なのでしょうか?
アクチュアリー試験に合格するための勉強時間ですが
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20090827
でも述べたように
一定の基礎(高校3年+大学教養程度の微積分(+線型代数))があれば
1科目150〜200時間程度
と考えています。(もちろんこれより短い時間で合格する例もあればこれより長くやっても合格しない例もあると考えます。)
(2010/2/23 21:33 JST 追記
http://www.rikeinavi.com/11/contents/actuary/interview/index2.html
で1科目200時間と書かれていることを思い出しました。)
次に、「一定の基礎」の取得に必要な時間を考えてみます。
(1)
http://ja.wikibooks.org/wiki/%E9%AB%98%E7%AD%89%E5%AD%A6%E6%A0%A1%E6%95%B0%E5%AD%A6
によると高校3年生の数学IIIは3単位で高校の1単位は
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AD%A6%E5%B9%B4%E5%88%B6%E3%81%A8%E5%8D%98%E4%BD%8D%E5%88%B6
によると、50分×35週なので
3×50/60×35=88時間(小数点以下切り上げ)
(2)
http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/kyomu/info/zenki/zenki-top/H20shinhuritebiki.pdf
のp17によると東京大学の理系では数学I(微積分)、数学II(線型代数)の講義と演習で合計12単位が課せられており、
同じく
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AD%A6%E5%B9%B4%E5%88%B6%E3%81%A8%E5%8D%98%E4%BD%8D%E5%88%B6
によると大学の1単位は45時間
12×45=540時間
となります。
ところが、高校3年の微積分のカリキュラムからは例えばグラフの話とか除ける箇所が少なからずあります。
大学の方はほんのさわりでいいのですから、かける時間はもっと少なくてすみます。
以上のことから
高3:80時間+大学教養:70時間=150時間
程度で十分お釣りがくるはずです。
(生保数理だけでよければ100時間あれば十分です)
高校数学の全公式が11時間で身につくとしている本(isbn:4569662153)や高校の微積分が5時間が身につくとしている本(isbn:4569557910)もあるくらいです。
(ただし、私は、これらの本に目を通していないのでそういう本もあるという紹介に留めます)
以上のことから、
基礎力150時間+全7科目の単純合計1,050時間〜1,400時間程度
=1,200時間〜1,550時間
となります。会計・経済・投資理論等については覚えることも多くもう少し時間がかかるかも知れませんが、恐らく全部合計しても2,000時間はいかないと考えます。
司法試験の受験で有名な伊藤真先生は
https://ssl.okweb3.jp/itojuku/EokpControl?&site=QandA&tid=309663&event=FE0006
「2,000時間の正しい勉強で合格するだけの力はつく」
とおっしゃられているのでアクチュアリー試験もそれと同様に
「2,000時間以内の正しい勉強で全科目合格するだけの力はつく」
と言えるのではないかと考えます。
上記のとおり、これらの受験には最短で2年(1次・2次各1年)かかる*5かかるので、上記の2,000時間も短期に集中するのではなく、少しずつでも長期間かければ十分合格できるということを示唆しています。
生保数理1科目に限定すれば、
高3以降の微積分の基礎を補っても合計400時間で十分合格可能
だと思うので今から試験予定日(12月24日)まであと310日あるので毎日
400÷310=1時間18分(端数切り上げ)
ずつ勉強すれば合格できることになります。
もちろん高校2年までの数学で「変な記号」(Σ・∫等)を見るのもいやとされる方にまで無理にお薦めできるものではありません。