私の「アクチュアリー試験」観

前回のエントリー
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20100602
に対し、生保アクチュアリーである、むしまん(@mushiman2)さんからコメントをいただいたので、(これまで本ブログやTwitterを長期にわたってご覧になられた方にはお分かりかも知れませんが)私のアクチュアリー試験に対する考え方を整理しておきたいと思います。


1.むしまんさんのA)の考え方に書かれている「正会員になって、ようやくアクチュアリーとしての出発点に立ったと言える」というのはある意味あたっているとおもいます。*1
ただし、2次試験が(全然とまではいわないが)「アクチュアリーとしての素養を高める」ことにも「実務にも役に立つ」ことにもそれほど直結するものではないと考えています。*2
寧ろそのような「精神論には嫌悪を抱く」という方に近いと思います。
試験と「素養」や「実務」との相関係数が低いからこそ、
そのような試験はなるべく早めに切り上げて「好奇心を満たすと共に、自己の能力向上に」役立つ勉強
を始めてほしいと願っています。


2.その意味でこのブログは、
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20070822
でも宣言したとおり、
1次試験特に数学を中心になるべく効率よくアクチュアリー試験に受かること
を主眼として立ち上げたもので、その1つの到達点が
アクチュアリー試験に役立つ知識と知恵」
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20091208
シリーズにあると考えます。
これなどはA)のような方*3が忌み嫌うべき対象なのではないかと考えます。


3.次に2次試験の捉え方ですが、「2年目の研究会員程度でも、実務をしていれば、知ってる程度のことしかでない」というのは、半分当たっていて半分当たっていないと思います。
まず、損保2の問題をアクチュアリーではない経理部門経験者に見せたことがあるのですが、「簡単」だとおっしゃっていました。したがって、「2年目の研究会員程度でも、実務をしていれば、知ってる程度のこと」というのはこの点ではあたっていると思います。
ただし、この仮定が有効な範囲について議論の余地があると考えます。
例えば、去年の損保2(損保会計)では自動車損害賠償責任保険自賠責保険)の責任準備金の計算が出ています。これは実務をやっていれば十分対応可能だと思います。ところが、自賠責保険の責任準備金計算は特殊な分野でかつ保険数理の知識が必要とされるところでもないので、自分も含めてアクチュアリー自賠責の実務をやっているなんて例はほとんどないと思います。
これは極端な例ですが、特に損保アクチュアリーの場合は、
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20100317
でも書いたように、積立保険がその契機となっていることなどから、積立保険等の商品部門からそのキャリアを始めたりして、経理部門の経験がないまま(損保2の)試験に臨むということが少なくありません。
したがって、経理部門で実務を担当していれば自明な内容であっても実際に手を動かしていないと難解なものになってしまうことが少なくありません。
また、一定以上の規模の会社では、経理部門であっても全部の範囲(支払備金、責任準備金、税務etc)に一遍に関わるということはまずないと思われるので、自分の担当している分野については「実務をしてい」るとは言い難いことになると考えます。


4.また、前回
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20100602
も申し上げましたが、特に損保2では最近の法令の改正等が好んで出題されています。
損保の2次試験のテキストは去年の7月に改定されたので、あと3〜4年程度は改定されないと考えます。(その前は平成17年7月、さらにその前は平成12年6月)
したがって、今のテキストは新しいテキストがでるまでは古くなる一方なので、そのGapを埋めることが試験勉強(特に損保2では)極めて重要な要素になってくると考えます。
そのため前々回
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20100531
では、そのあたりの知識のアップデートの仕方について自分なりの方法を示したところです。


5.以上のことから、テキスト以外の文献については、別に「素養」とか「実務に役立つ」とかいう観点などではなく
「試験に出るから」というその1点のみ
でお奨めしているところです。


6.なお
(1)B)にあるような「試験に受からない」方を「最低限の能力に欠ける」とは思いません。特に2次試験を受けられる方は1次試験に全部合格した方ですから、十分能力があり、かつ少なからぬ時間を試験勉強に振り向けた方だと思います。


(2)C)ですが、私が接した範囲では幸いにも(ほとんど)いませんでした。昔、若手社員や内定者の受験支援をしたことがあるのですが、彼らはそれはとてもよく勉強していました(好きかどうかは不明ですが)。
むしろ、指定された教科書・参考書(数学であれば国沢先生の演習書等)や評判のよい参考書を「頭から全部」やろうとしていて、(A〜Cで強いて分類するとすれば)A)に属するようなタイプの方が多かったと思います。
繰り返しになりますが、私自身は、
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20080526
にもあるように、(少なくとも1次試験については、)そのように「頭から全部」という方法は、量が膨大でやってられないという立場をとっており、効率的な方法をこのブログで提示することを試みているところです。


以上

*1:ただし、正会員でなくても、優れた活躍をされている方がいらっしゃることは確かです

*2:例えば損保1(損保商品)の試験に受かっても新商品1つ作れません(申請書がかけない)。

*3:そのような方は、このブログからほとんど得るところはないので、読んでいることはほとんどないと思いますが