アクチュアリー(試験)と大学院

今日は
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20100615
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20100626
でご質問された高校生の方からのご質問と回答です。


これを基に
アクチュアリー(試験)と大学院
について考えてみたいと思います。
まず私自身は大学院に行かずにすぐに就職したので、そのことは念頭においてお読みくださるようお願いします。
また、以下保険数理を念頭に置いて話しますが、年金数理でも同様だと思います。


結論だけ先に申し上げると(突き放したような言い方になって申し訳ありませんが)
「どちらも可」
ということになります。


1.「大学の3年からであり、学部卒で就職するとしたら、就職までに受験できる機会は1回」ということと、大学院修士課程に進学すればこれが(最大)3回になることは、間違いないところです。


2.ただし、
大学院で学んだことが、アクチュアリー試験受験のための知識の増加に必ずしも直結するとは限らない
と考えます。
反論があるかも知れませんが、日本の大学でActuarial Science(「保険(年金)数理」)を研究されている先生方は、ほとんどいないであるといってよいと考えます。
金融工学や確率過程論等を研究されている先生方は少なくないのですが、金融工学と保険数理は重なっている部分もあれば全く異質な部分もあると考えます。)
金融工学等の知識は、アクチュアリーの業務にも損にはならないですが、それは保険(年金)数理業務のすべてではないし、試験にも直結しないものでもあります。

ましてや、金融工学や確率(過程)論等と関係ない純粋数学や経済学の、特に大学院で研究されるような内容は、アクチュアリー試験にはほとんど無縁と考えられた方が無難でしょう。ほとんどの先生方は、もちろんアクチュアリーとか全く意識せずにご自身のご興味の赴くままに研究をされているのだと考えます。

今までこのブログでは何度か述べているのですが、
(日本の)アクチュアリー試験に必要な数学力は、大学2年くらいまでの微積分、線型代数
であり、
大学院のカリキュラムではない
ことに留意する必要があります。

そのため(理系の)大学院を修了された方でも、アクチュアリー採用の試験でこれらの必要な数学力をクリアしていない(ためお引き取り頂いた)方はいくらでもいらっしゃいます。


3.時間についてですが、一般的にいうと、大学院生の研究時間<会社員の就業時間という不等式は成り立つと思いますが、特に保険会社等に入社したてのころは、アクチュアリー会の講座等の勉強の機会を与えてくれたり、試験前の仕事量を減らしてくれたりするなどそれなりの配慮をされることが少なくありません。


4.念のために申し上げますと、「アクチュアリーになるのに大学院はいらない」というつもりはありません
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20100626
でも書いたこととも重なるのですが、大学院にいながらでないとなかなか学べない事項は存在します。
もちろん、大学院に行かずに早めに「会社」に出る*1ことによって得るものもあると考えます。

結局、
大学院か会社かの選択というのは、経済学部か数学科かの選択のようなもの
で、大学4年間で学ぶ経済学(又は数学)に飽き足りないのであれば、大学院に進んでさらに究めるのも一法だし、保険会社(信託銀行、コンサル等)に就職して実務の中で学びたいということであれば早くに「会社」に出ることもまた一法だと考えます。


5.最後に、受験機会に関連して申し上げますと、(大学1年〜3年までの)3年かけて準備すれば、受験機会が1回であっても1〜2科目合格することは十分可能であると考えます。
ところで、

(1)3年次に合格科目がなくても、あるいは受けていなくても、アクチュアリー採用される可能性も
(2)アクチュアリー採用されなくても(一般の社員として入社しても)アクチュアリー採用より先にアクチュアリー正会員になることも

はたまた

(3)新卒で入った会社では芽が出なくても転職で逆転することも*2

全部起こり得る(実際に起こっている)ことなのです。


6.以上をまとめると
大学院に行くかどうかは、アクチュアリー試験合格の有利不利ではなく、自分の興味に従って決まればよい
と考えます。
(大変失礼な書き方になるかも知れませんが、)今の時点で考えてもしょうがない(3年後興味が変わる可能性のほうが大きいです)ので、大学3年になって改めて考えればよいのではないでしょうか。

以上

*1:「社会に出る」という表現が取られることが多いとは思いますがここではあえてこのように記すことにします。

*2:http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20100319http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20100322