数学の問題を解くときに考えること(1)
今回と次回の2回(予定)で、Twitter上の投稿をきっかけに、アクチュアリー(試験)との少しだけしか関係ないかも知れませんが
「数学の問題を解くときに考えること」
について考えてみます。
きっかけとなった一連のTweetsは以下のとおりです。
(なお、最後のTweetに出てくるポリアとは
アクチュアリー(候補)の皆様には「ポリアの壺」で知られるあのポリアです。
http://d.hatena.ne.jp/gould2007/20070924
によると、問題の解き方について「Polyaの四原則」というのを残しているようでこれが当該書籍 isbn:4621045938 にも書かれているものと考えられます。)
0.はじめに
まず、個別の問題を解くこと自体が最終目的ではないことに留意すべきだと考えます。
最終目的は、例えば特定の試験(大学入学試験、就職試験、資格試験)に合格することであるはずです。
そこでは、
(1)一定の時間内に何問かを解かせる。
(2)必ずしも100点である必要はなく合格最低点が決まっている。(アクチュアリー試験の場合は60点)
という特徴があり、時には特定の問題を「解かない」ことが最終目的(合格)のための最適戦略である場合もあります。
また、試験の内容が記述式、つまり、解答に至るプロセスを示すのか(実は、採点官用の「演技内容」であり、実際の考え方のプロセスとは必ずしも一致しないことに注意する必要があります)、あるいはマーク式、つまり、解答に至るプロセスを示す必要はないのか、でも解き方が違ってくることがあります。
つまり、
全体の戦略がまず優先させるべきものであり、個別の問題を解くことは戦術にすぎない
ということになります。
もっとも、以上のような話は、何かの手段としてではなく、問題を解くこと自体に喜びを見出すパズル愛好者のような方*1には当てはまりませんが、そのような方は、以下に書くようなことは当然心得ていらっしゃると思います。
マーク式の場合の特有の解き方については、
例えば
アクチュアリー試験に役立つ知識と知恵
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20091208
での各リンクをご参照いただくこととして、ここでは記述式特に高校数学程度の問題を例にとって「戦術」面を考えてみたいと思います。
1.「解ける問題」であるとの認識
まず考えるべきことは、
この問題は「解ける問題」である
ということを認識することです。
現実には、必ずしも答えがない、あるいは、すっきりした形で解けない問題も少なくないことはお気づきでしょうが、試験で出題される数学の問題は
正しいやり方をすれば、数十分程度で解けることを意図して作られた「人工的な問題」
であるということです。
「人工的な問題」なので、出題者が意図した(数十分程度で辿りつける)ルートがあるはずであり、「(人工的な)問題を解く」とは、そのような、出題者の意図を探る心理戦ともいえると思います。
2.結論の予想
次に、結論を予想します。
まずこの問題が出されたとき、
「出題者は、『は有理数ではない(無理数である)』という結論を期待しているんだな」
と考えることです。
なお、他の教科だと、解答者をひっかけようとするポイントも用意されていたりしてそれを見抜く力も必要になることがありますが、数学ではそのような引っかけポイントは恐らく他の教科に比べて著しく少ないと考えます。
3.主役と第一幕の決定
更に、その結論に導くための主役(主な解法)と第一幕(つまり議論の出発点)を決めます。
まず、無理数である(有理数でない)ことを証明する手段として考えられるのは背理法です。
つまり「有理数である」ことを仮定して矛盾を導くことです。(が無理数であることを証明する手段がそれです)
となると第一幕は、
「が有理数とすると…」
となります。
4.脇役の選定
最後に、脇役、つまり、与えられた条件の中で使える他の道具を洗い出します。
この問題は大学入試問題なので、高校生が解ける問題です。
tanについて高校生レベルで知っていることはそれほど多くはありません。
(1)tanの定義
(2)tanとcos,sinとの関係
(3)具体的なtanの値
(4)加法定理
(5)tanのグラフ
(6)tanの微分
程度です。
当然ですが、高校生が知らないことを使わないと解けない問題は大学入試では出題されません。
したがってこのうちのどれか(あるいはその組み合わせ)で解けるはずです。
(3)でが無理数*3であることから、「が有理数」とする仮定と矛盾が導けないかと考えます。
「」とまたはを結びつける手段として、(4)の加法定理が使えないかと考えます。
つまり、を30(60)個加えれば()であり、加法定理においては、加減乗除しか出てこないので、
(7)有理数同士の加減乗除はまた有理数となること
を思い出せば、
が有理数ならば、またはもまた有理数になってしまう
ことを導けそうだとの考えに至ります。
5.まとめ
具体的な解答は、 [twitter:@nartakio] さんのページのものを拝借します。
http://math.iza-yoi.net/bot/kyoto/06ks-6.html
本件は、上記のようにアクチュアリー試験との関連性はそれほど高くないので今回だけにしようと思ったのですが、まだ書きたいことがいくつか(分割・ダウングレード、問題の置き換え、背景の把握)あるので、それは次回(以降)にいたします。