アクチュアリー試験中止の危機?

今日はわざと大袈裟なタイトルをつけてみました。
(「アクチュアリー試験のBCP(事業継続計画)に関する一考察」としようかとも思ったのですが)


アクチュアリー試験受験者の方は、まず、
http://www.actuaries.jp/examin/H21exam/H21-influenza.pdf
をお読みください。


以下数学的な話は皆無なので、読まれる方はそのことをご理解の上お読みください。


年金数理人会の試験で
「インフルエンザの感染可能性のある方は返金するから受験を控えてくれるように」
という旨の掲示
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20091009
があったので、アクチュアリー試験でも同様の掲示の可能性を予想していたのですが、上記のような掲示が出ました。


掲示の内容は当方の予想を超えるもので、
今後の新型インフルエンザの感染拡大に伴い、中止することがあります。
ということだそうです。


アクチュアリー試験は、日本アクチュアリー会の「事業」の1つです。*1
また、日本アクチュアリー会公益社団法人を目指しています*2が、万が一にも「中止」となった場合、公益認定において
事業実施のための技術、専門的人材や設備などの能力の確保*3
が議論の対象になる恐れがあります。

以上のことから、新型インフルエンザのパンデミック下でのアクチュアリー試験の実施は、まさしく
日本アクチュアリー会のBCP(Business Continuity Plan 事業継続計画)
に属する課題と考えられます。


アクチュアリーは、ある意味でのリスク管理のプロ*4であり、実際日本アクチュアリー会法人会員の会社(子会社を含む)では、BCP、特に新型インフルエンザ対策を売りにしているところもいくつかあるので、当然ながら、日本アクチュアリー会としては、アクチュアリー試験の事業継続計画をいろいろと考えられており、そのような「計画」がなくなり文字通り「万策尽きた」ときにはじめて「中止」ということだと考えられます。
ただし、残念ながら上記の通知からそのようなBCPの中身を読み取ることは不可能です。


ここでは、部外者の目線から、アクチュアリー試験の継続計画について考察してみたいと思います。


アクチュアリー試験が「中止」になるリスクとしてまず考えられるのは「人」の問題、「場所」の問題、「国や都からの中止要請」などが考えられます。


(1)「人」の問題
最初に考えられるのは、試験監督者が確保できるかという問題があります。
試験監督者はアクチュアリー会の正会員が担当していると理解しています。*5予定したいた試験監督者の大半が直前に新型インフルエンザでダウンした場合に試験監督ができなくなるというリスクがあります。
当然ながら(受験者となりうる)準会員・研究会員を監督者とすることはできませんが、試験監督を正会員にしなければいけないという必然性はどこまであるのでしょうか。つまり、最悪(アクチュアリー試験とは関係ない)短期のアルバイトを使ってでも(もちろんアルバイトを束ねる試験委員や事務局のメンバーは必要です)試験の遂行の可能性を探るべきではないかと考えられます。


(2)「場所」の問題
アクチュアリー試験の東京会場は従来からW大学の構内を使用しています。
W大学内で新型インフルエンザが大流行し、大学が閉鎖された場合に、試験場所が確保できなくなるというリスクがあります。
(大阪は民間の貸ホールなので、「閉鎖」のリスクはより小さいと考えます)

アクチュアリー会の会議室は全部あわせても最大120名(それも一杯に詰めての人数のはずなで、試験会場としては80人程度?)なので、アクチュアリー会で全員を収容することは不可能です。(それができるくらいであれば最初からアクチュアリー会で行っているでしょう)

かといって千数百人分*6の席を別に確保しておく(通常どおり受験となれば、キャンセル扱いでまず返金されない)というのも費用対効果の面で問題です。

これを回避するためには例えば次のようにすると比較的低コストで場所を確保することが可能となると考えられます。
(a)賛助会員各社に、試験期間中自社での受験者分の部屋(会議室等)の確保を要請*7
(b)個人の受験者についてはアクチュアリー会側でアクチュアリー会の会議室を含め部屋を分散して確保*8
(c)W大学が閉鎖された場合は、上記(a)(b)の各会場で実施

当然一箇所に集中したほうがロジスティクス(試験問題の配送等)が効率的なのはいうまでもないのですが、一箇所でなくてはいけない理屈はないと考えられます。現実に全国2箇所(東京・大阪)で実施しているし、かつては中国・台湾の数都市(台北・北京等)でも実施していたこともあるくらいですから。
その他にもいろいろ課題はあるとは思いますが、それらの課題を個別に列挙し解決策を探ることがBCPの一環だと考えられます。例えば、試験の公正の確保が課題になるのですが、それは、監督者の人数を増やすことで対応すればよく、上記の「人」の問題に帰着されると考えられます。


(3)国や都からの中止要請
例えば、「新型インフルエンザの国内感染発生に伴う商工会議所検定試験の対応について」(平成21年9月 日本商工会議所
http://www.kentei.ne.jp/info/infuru_taisaku.html
には
「国や自治体から施行中止要請等がなされた場合には、検定試験の中止や会場変更等の事態が生じる可能性があります。」
とあります。

アクチュアリー試験に個別に中止要請するとは考えにくいので、これは本当に大流行が発生し、外出自体が自粛要請されるような事態だと考えます。

さすがにこの場合は中止もやむなしだと考えますが、流行が収まるのを待って「延期」(3月初頭*9?)することも考えられるところです。*10


1年に1回の試験を「中止」することは受験者に甚大な影響を及ぼすものであり、いたずらに受験者の不安を惹起することのない記述が望ましいと考えられます。
以上の記述が本当に杞憂であればよいのですが。


受験者の皆様には、少なくともご自身がインフルエンザに罹患することのないよう体調を管理し、万全の体調で受験を迎えられることを願ってやみません。


<参考>
http://www.actuaries.jp/examin/H21exam/H21-influenza.pdf
より


平成21 年11 月
社団法人 日本アクチュアリー会
試験委員会

平成21 年度アクチュアリー資格試験に関するお知らせ(新型インフルエンザ関連)

平成21 年12 月24 日・25 日・28 日に実施を予定している平成21 年度アクチュアリー資格試験における新型インフルエンザ対応について、以下の通りお知らせいたします。
(1) 資格試験については予定通り実施することとしておりますが、今後の新型インフルエンザの感染拡大に伴い、中止することがあります。万が一、試験を中止した場合は、当会ホームページ(http://www.actuaries.jp)においてお知らせするとともに、賛助会社会員には連絡担当者経由で、それ以外の受験申込者については郵送にて、お知らせする予定です。決定日によっては郵送でお知らせできない可能性がありますので、試験直前についてはホームページを適宜ご確認いただきますようお願いいたします。
(2) 厚生労働省では、咳・発熱等の新型インフルエンザが疑われる症状が認められるときは、すぐに医療機関を受診することを推奨しています。また、感染予防のために、手洗い・うがいや咳・くしゃみの際の「咳エチケット」が大切であることを呼びかけています。アクチュアリー試験の受験にあたっても、同様のご対応をお願いいたします。
(3) 試験会場の出入り口に消毒液を用意いたしますので、必要に応じご利用ください。
また、感染拡大防止の観点から、マスクを着用して受験いただくことを推奨いたします。なお、資格試験の際に着用するマスクについては、公正な資格試験実施のため、試験監督員がチェックさせていただきます。
(4) 資格試験受験中に体調が悪くなった場合は、挙手して試験監督員の指示に従ってください。また、感染者拡大防止の観点から、試験中、咳が激しい受験者には座席の移動や退出をお願いすることがあります。

以 上

*1:日本アクチュアリー会定款http://www.actuaries.jp/intro/H15teikan.pdf 第4条(2)に「アクチュアリーの専門職としての職務遂行上必要な一定水準以上の知識・技能の保持を判定する資格試験の実施」とあります

*2:アクチュアリージャーナル第70号p40左欄10行目

*3:内閣府公益認定等委員会「公益認定等に関する運用について」 https://www.koeki-info.go.jp/pictis_portal/common/index.do?contentsKind=120&gyouseiNo=00&contentsNo=00201&syousaiUp=1&procNo=contentsdisp&renNo=1&contentsType=02&houjinSerNo=&oshiraseNo=&bunNo=1120010316&meiNo=1120009770&seiriNo=undefined&edaNo=undefined&iinkaiNo=undefined&topFlg=0 p4下から4行目

*4:と私は理解しています

*5:私は試験委員の経験はないですが、一度試験監督を行ったことがあります。その後どうなったかは不明ですが、恐らく現在も同様だと思います。

*6:去年の試験結果を見ると受験申込者数が最大の科目は数学で1,321人とあります。

*7:1次受験者と2次受験者が同じ時間に受験することがありますが、科目毎に別の部屋を確保する必然性はありません。東京会場ではそのようにしているはずですが、人数の少ない大阪会場では、1次受験者と2次受験者を一緒に受験ということしていたことがあります。

*8:去年の数学の合格者232人中個人会員は67人で約29%なので、受験申込者の3割が個人会員とすると、400名程度の席を確保すればよいことになります。

*9:http://kurie.at.webry.info/200908/article_43.htmlによると9週目に流行のピークを迎え、19週目に終息とあります。

*10:ちなみに行政書士試験 http://gyosei-shiken.or.jp/news/index2.html では、一部の会場での中止という事態も想定して、「試験中止となった試験場の受験予定者の方々については、後日あらためて試験を実施します。」と記載していました。アクチュアリー試験では、さすがにそこまで要求するのは酷(予備問題を作らないといけないので)ですが、全体を「延期」して後刻実施するという選択肢はあると考えます。