年金数理のご質問

平成19年度資格試験問題集の年金数理の問題1(8)についてブログの読者の方からご質問を受けたので、ご質問者の許可を得て掲載いたします。
私は年金数理の専門家ではないのでその点はご容赦ください。


問題の概要とご質問者のご質問内容は次のとおりです。


(問題の概要)

ある年度の年金制度の諸数値が以下のとおりであった時、この年度の差損益として正しいものを選べ
期初責任準備金 2000 期末責任準備金 2300
期初過去勤務債務 500 
標準保険料 (年一回期初払い) 400 給付(年一回期末払い) 300
予定利率 5.5% 実際利回り 7.5%
過去勤務債務償却方法及び償却割合 初期過去勤務の30%を償却(年一回期初払い)


(ご質問内容)

問題では予定利率5.5%と実際利回り7.5%があります。実際利回りで
(1500+400+150)*1.075−300=1903.75
として期末積立金を求めています。
同じようにして予定利率で
(1500+400+150)*1.055−300=1862.75
とすることができないのはなぜですか?答えを見ると予定利率の場合では期末積立金は1930.75とならなければなりません。
問題に載ってある「ある年度の年金制度の諸数値」は実際利回りで運用した時の値なのですか。
今回は保険料期初払いで給付期末払いなので利率の違いにより
(1500+400+150)*1.055−B=1930.75
と給付額が実際利回りの場合と予定利率の場合では異なるのですか。
予定利率の場合では
B=232となってしまいます。
答えでは予定利率の場合で
(500−150)*1.055
と期末債務を求めていますが、同じように
(500−150)*1.075
と実際利回りの場合でも求めることができないのはなぜでしょうか?


年金数理、特にこのような年金財政を考える問題については、基本的な簿記・会計の知識が前提になっていると考えられます。
もちろん、「会計・経済・投資理論」に合格するよりもずっと初歩的な知識で十分です。
それについては、例えば会計の入門書等で補ってください。


以下基本的な簿記・会計の知識はあるという前提ですすめます。


(1)期初時点((標準)保険料収入・過去勤務債務償却前)の貸借対照表は次のようになります。

(資産)1,500 (負債)責任準備金 2,000
(純資産) △500

資産の1,500は、
2,000(責任準備金)−500(過去勤務債務)=1,500
として算出されるものです。
つまり、500の分だけ債務超過であり、それが正しくここでいう「過去勤務債務」です。


(2)標準保険料収入・過去勤務債務償却直後の貸借対照表は次のようになります。

(資産)2,050 (負債)責任準備金 2,400
(純資産) △350

まず、過去勤務債務の500の30%を償却するので特別保険料は
500×30%=150
であり、資産は
1,500+400(標準保険料)+150(特別保険料)=2,050となります。
このうち標準保険料400は将来の年金の給付原資にあてるべきもの年金契約者に対する債務を負ったことになり、責任準備金(負債)の増加につながります。
特別保険料は過去勤務債務(マイナスの純資産)の埋め合わせに使われるので責任準備金の増加にはつながりません。


(3)「差損益」を聞かれているのですが、「差損益」とはどのようなものかを改めて振り返っておきます。
保険では三利源で捉えることとされています。
死差損益(損保では「危険差損益」):予定される死亡率(事故発生率)等と実際の死亡率(事故発生率)等の差により生じる損益
利差損益:予定利率と実際の利回りとの差により生じる損益
費差損益:予定事業費と実際の事業費の差により生じる損益
この問題では、
(a)利差損益

(b)利差損益以外の差損益
を考えることになります。
(b)は、予定利率以外の基礎率(加入者数、昇給率、脱退率etc)が予定と違っていたことによる差損益です。具体的には予定どおりであったときの責任準備金と実際の責任準備金との差異を求めます。


(4)まず、利差損益ですが、
期初(標準保険料収入・過去勤務債務償却直後)の資産2,050
×(実際の利回り7.5%−予定利率5.5%)
=41
となります。


(5)次に利差損益以外の差損益の方ですが、予定どおり推移した場合の期末の責任準備金を求めます。
「予定どおりの推移」、利率も予定利率を使います。*1
保険料導入直後の責任準備金は2,400だったので、年金を支払う直前には、
2,400×1.055=2,532
になります。
年金300を払うことは、年金契約者に対する債務(の一部)を履行したことになるのでその分負債(責任準備金)が減少します。したがって、
2,532−300=2,232となります。
これと期末の実際の責任準備金2,300との差は
2,232-2,300=△68
です。これがマイナスというのは予定より債務が膨らんだことになるので、「差損」となります。


(6)したがって、(4)の利差益と(5)のそれ以外の差損を通算して
41−68=△27
が答えとなります。


責任準備金については、
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20100109
もご参照ください。

*1:責任準備金を予定利率で評価することを暗黙のうちに仮定していますが、実は責任準備金のこのような評価方法自体について議論のあるところです(例えば、s_iwkさんのブログ http://iwk.cocolog-nifty.com/blog/2010/08/post-4688.html 等ご参照)ここでは、「(現在のところ)責任準備金は、予定利率で評価」という整理をします。