アクチュアリー就職・転職活動としての論文投稿・発表

少し前にTwitterで書いたのですが


もとの質問は次のとおりでした。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1047696260

現在,大学4年で数学科で勉強しています。
来年からは,大学院の修士課程で2年間さらに数学を勉強するつもりです。
大学院卒業後は,銀行,証券,保険などの金融関係の仕事に就きたいと思っているのですが,

就職の際に有利になる資格はありますか?
アクチュアリーの資格も考えたのですが,1年や2年で取れる資格ではないので諦めました。
金融商品の開発などに興味があるのですが,何かありますか?


これを見た第一印象は、
これから大学院で数学を更に勉強しようとしているのに、その数学を生かすことを第一義としたほうがよりよいと思う
ということでした。


資格についてですが、青木理音([twitter:@rionaoki])さんが、
http://rionaoki.net/2009/11/1317
で、資格を取るメリットとして、
シグナリング
・独占利潤
を挙げられています。

保険アクチュアリーの場合は、「独占利潤」はほぼない*1ので、アクチュアリー」という資格にメリットがあるとすれば「シグナリングという点です。

アクチュアリー試験の場合は、幸か不幸か受験者数、合格者数とも他の資格に比べて少ないので、その点にシグナリング効果があるとも考えられます。


ところが、アクチュアリー(及びそれを目指す方)にとって、アクチュアリー(の科目合格)以上に強力なシグナリング効果のある資格を探すのが容易なことではありません

例えば、損害保険会社に入社すると、損害保険の代理店資格、(子会社や関連会社の)生命保険の募集人資格、証券外務員資格等を取得することになります。また、他にも自己啓発として様々な資格の取得が「推奨」されます。生命保険会社や信託銀行でも同様だと思われます。

したがって、アクチュアリー(候補生)を採用する職場に対して
「1年や2年で取れる資格」
ではシグナリング効果は極めて乏しいのではないかと懸念されます。

もっとも、司法試験、公認会計士試験、税理士試験等であればアクチュアリー試験と同等以上のシグナリング効果があると思われますが、それらの資格を「1年や2年で取」るのは容易なことではないのではないかと考えられます。


これからアクチュアリー(候補生)として就職活動(または転職活動)をされる方はアクチュアリー以外の資格を考えるくらいであれば、
論文を作ってアクチュアリージャーナル・会報への投稿・年次大会での発表
等をお勧めします。


数学では(それ以外でも?)修士課程での研究論文が学術誌(英文)に掲載されることは少ないのではないかと考えますが、アクチュアリージャーナルや会報に(日本語の)論文を掲載することはそれよりはずっとハードルが低いです。(いわゆる査読がありません。)

それでいて、学生さん・院生さんで投稿・発表している人などまずいない*2ので、もし掲載・発表されれば他の方との差別化を図る意味で大いに有効だと考えます。

しかも、(私も今さらながら気付いたのですが、)
アクチュアリージャーナルについては、会員でなくても投稿可能
です。(実際に会員でない方の寄稿が掲載されています。)


会報への論文投稿や年次大会での発表は会員でないと投稿できないですが*3、要項は
http://www.actuaries.jp/info/ronbunboshu_H22.pdf
のとおりです。
(年次大会は11月なので、発表の受け付けはもう締め切られていますが、論文自体は年中募集中です)

アクチュアリージャーナル自体は、会員限定への配布*4なので、原稿の募集要項の転載は見送りますが*5、ご興味のある方は
actuary_math@yahoo.co.jp
に御連絡くだされば、お知らせいたします。

*1:保険会社の保険計理人はアクチュアリー正会員であることが必要条件ですが、それは通常ベテランアクチュアリーがなるので、就活等とはほぼ無縁です。年金数理人の場合は、独占業務があるので若干異なると思いますが。

*2:残念ながら各会社に所属する会員の投稿も…

*3:年次大会では会員でないと思われる方が発表者になっていることもあります。会員と共同であれば可能なのかもしれません。

*4:ISSNは1343-6554です。国立国会図書館にあることは確認しました。

*5:上記のとおり会員限定配布なので、「会員内外を問わない」という情報を、会員以外の方が目にする機会は極端に少ないですが…