アクチュアリー試験受験の知恵(10)

しばらく中断していましたが、「アクチュアリー試験受験の知恵」シリーズを再開します。

前(アクチュアリー試験受験の知恵(9))
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20080829
で出した問題を再掲します。

「1家族に子供がn人いる確率は[tex:(1-p)p^n \, (n \ge 0,0「既に分かっている結果にうまく乗る」
ことです。

男の子供がk人いる確率をp_kとおくと、
p_k=\sum_{j=0}^{\infty} \{ \left( \begin{array}{c} k+j \\ k \\ \end{array} \right) \cdot (\frac{1}{2})^k \cdot (\frac{1}{2})^j \cdot (1-p)p^{k+j} \}
となります。(\left( \begin{array}{c} k+j \\ k \\ \end{array} \right)は2項係数)
これを変形して、
p_k=(1-p)(\frac{p}{2})^k \cdot \sum_{j=0}^{\infty} \{ \left( \begin{array}{c} k+j \\ j \\ \end{array} \right) \cdot (\frac{p}{2})^j \}
とします。
(ここで、\left( \begin{array}{c} k+j \\ k \\ \end{array} \right)=\left( \begin{array}{c} k+j \\ j \\ \end{array} \right)を使っています。)

問題は、
\sum_{j=0}^{\infty} \{ \left( \begin{array}{c} k+j \\ j \\ \end{array} \right) \cdot (\frac{p}{2})^j \}
ですが、

(☆)一般の2項定理
(1+x)^{\alpha}=\sum_{j=0}^{\infty} \frac{\alpha \cdot (\alpha-1)  \cdots  (\alpha-j+1)}{j!}x^j=1+\alpha x+\frac{\alpha(\alpha-1)}{2}x^2+\frac{\alpha(\alpha-1)(\alpha-2)}{3!}x^3+ \cdots
で、
\alpha \to -(k+1),x \to -\frac{p}{2}
と置き換えると

\sum_{j=0}^{\infty} \{ \left( \begin{array}{c} k+j \\ j \\ \end{array} \right) \cdot (\frac{p}{2})^j \}=\frac{1}{(1-p/2)^{k+1}}
であることが分かります。
(各項でマイナスが出てくるのですが、それが全て偶数回なので結果として掛算した結果1になることにご注意ください。)

このことより、
p_k=(1-p)\frac{(p/2)^k}{(1-p/2)^{k+1}}
であることが分かります。

それでは、なぜ「一般の2項定理」(☆)だったのでしょうか?

それは、
「一般の2項定理」以外に使えそうなものがない
からです。

我々は、「無限級数の等式」をそれほど多く知っているわけではありません。

「無限級数の等式」と言われてすぐに思いつくのは、
(a)等比級数
\frac{1}{1-x}=\sum_{j=0}^{\infty} x^j
(b)\exp (x)テーラー展開
\exp (x)=\sum_{j=0}^{\infty} \frac{x^j}{j!}
あたりではないでしょうか?

(a)は幾何分布、(b)はポワソン分布に関連付けられることが分かると思います。
一方(☆)は負の2項分布に関連付けられます。

無限級数の等式としては、他には例えば、
(c)\log (1+x)テーラー展開
\log (1+x)=\sum_{j=0}^{\infty} \frac{(-x)^j}{j}
などがありますが、これと結びつく確率分布はありません。
(展開項は交互にプラスマイナスになるので、確率関数にはなりえません。それがx>0だと常にプラスになる(a)(b)との違いです。)

(a)や(b)なら右辺から容易に左辺が算出できると思われるので、
確率・統計を扱うアクチュアリー試験では、
算出が難しそうな無限級数の式については「一般の2項定理」と結びつける
のが一番自然な考え方なのです。

次は、この問題を「複合分布」の観点からもう少し考えてみます。