アクチュアリー試験受験の知恵(11)

試験直前まで残りわずかですが、かなり長い間中断していた「アクチュアリー試験受験の知恵」シリーズを再開します。
(前回の「知恵」は、
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20080919


今日はアクチュアリー試験の受験本番での「戦略」について考えてみます。


今日このようなことを書こうと思ったのは、あるブログ(そのURLはあえて記しませんが)で、受験生の方が講師の先生から
試験中の心得として
「試験開始直後は全体を見て、戦略を立てる。15分くらいかけても構わない。」
とようにいわれたとあったからです。

「戦略」を立てることはいいことだと思いますが、
最初の「15分」で何をすべきか
については、考慮すべき余地があると思われます。


この講師の先生が受験された大学の数学の入試は、記述式の2次試験で大体半分くらいとれば合格できるといわれているものです。
(某大手予備校のHPでその大学の合格最低点の情報が記載されていましたが、実際それを裏付けるものでした)

そして数学では2時間半で記述式6問を解くものであり、かつその6問は出題分野や難易度などにばらつきがあり、アクチュアリー試験とは大分趣のことなるものです。

この大学の試験であれば、問題の取捨選択が鍵になると考えられるので、開始後15分かけて戦略を立てることは必要かもしれませんが、アクチュアリー試験だとその間に1問以上解けてしまいます。
(前
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20080815
から何度も何度も申し上げて恐縮ですが、小問は1問10分が目安です。)

将棋の棋士は、あらかじめ決まっている対戦の前日(以前)に作戦を練るといわれていますが、アクチュアリー試験でも予め戦略を立てておくことは十分可能だと考えられます。


アクチュアリー試験数学の問題構成についておさらいします。
ここ数年下記のような構成で、今年も恐らく変動ないと考えます。
(A)小問(確率、統計、モデリング各4問、1問5点。)
(B)確率の大問(長文の穴埋め20点)
(C)統計の大問(長文の穴埋め20点)

これを踏まえて合格のために必要な点数をとるには以下の3通りの戦略が考えられます。
1.小問を完璧に仕上げて大問はほとんど0点でもいい。
2.大問をほぼ完璧に仕上げて小問は半分に満たないくらいの出来。
3.小問に7割程度(3問、最大でも4問程度のミス)で大問に食いつき何とか半分前後の点数を確保。(大問の中で(1)(2)と分かれていたら(1)は何とか解く。実際去年の大問はそうなっています)

この中で現実的なのは3.でしょう。
つまり小問で12問中8〜9問を確保できるかどうかが鍵になります。


その上で小問のそれぞれを「ざっと」みてみます。
去年の問題を例にとると、

箱の中に1,2,3,\cdots,11なる番号のついた札が1枚ずつ、合計11枚入っている。この箱から非復元抽出によって無作為に3枚の札を取り出したときに得られる番号の和の分散は□である。
(A)\frac{8}{3}
(B)\frac{10}{3}
(C)8
(D)10
(E)20
(F)24
(G)\frac{80}{3}
(H)30

などは
「有限母集団からの非復元抽出」
http://actuary.upthx.net/pukiwiki/index.php?1.1.2.1.4.%C9%B8%CB%DC%CA%BF%B6%D1%A1%A6%C9%B8%CB%DC%CA%AC%BB%B6%A1%A6%C9%D4%CA%D0%CA%AC%BB%B6%A1%A2%CD%AD%B8%C2%CA%EC%BD%B8%C3%C4#r6d8e94a
の問題でこの「結果」を記憶しているかが鍵になる問題です。
(記憶していない場合にはどうするかは次回考えます)


このように、ややこしい確率密度関数の式や変な分布に基づく統計量といったような、一夜漬けに近い形での記憶に頼る問題がいくつかあると思います。(一夜漬けでない形を求めるとすればそれこそ「九九」のように覚えるしかないのですが、それには長い時間をかけた反復練習が必要です。そしてそんなことをしている受験生には(合格者も含め)ほとんど出会ったことがありません)

それらの一夜漬けに近い知識は、「中期記憶」と呼ばれるもので、「エビングハウス忘却曲線」の理論によると
20分たつと4割以上は失われる
といわれています。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BF%98%E5%8D%B4%E6%9B%B2%E7%B7%9A

記述式の問題だと部分点があるかも知れませんが、マーク式だと全部の点数を失うことになりかねません。
したがって、ざっと問題をみるときに中期記憶に頼りそうな問題を見つけ、それらの中期記憶のうち、
試験で使いそうなもの(上例では「有限母集団からの非復元抽出」の分散)を忘れないうちに問題用紙の余白や計算用紙等に書き込んでおく
と有効でしょう。


さて、次回は上記の問題を題材にして「状況と解き方」というテーマで考えてみます。