2008年度アクチュアリー試験から(3)

しばらく間があきましたが
「2008年度アクチュアリー試験から」シリーズ
をあと2回続けます。


今回は問題2の(3)を考えます。
普通の(?)解答は
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20090115
及び
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20090114
のコメント欄で紹介されているブログでご確認ください。
(ただしこの部分の解答は、指定の問題集をリファーさせるようになっているようです。)


まずこのような問題への取り組みとして
「一番楽な状況を設定する」
ということがあります。


この場合は、当面n=2で考えてみます。


前半の積率母関数ですが、(B)と(D)は明らかにおかしいです。rは非負の整数であればどんな値をとることも可能ですが、t=r>2のときに対応する\theta_tが存在しないからです。
となってあとは(A)と(C)の比較になるのですが、
例によって、\theta_1=\theta_2=0で考えてみます。積率母関数であれば全部の変数を0にしたとき1になるはずです。
(A)は1で、(C)は2^rであるので、
(A)以外に答えはない
ことになります。


後半についてですが、X_1が二項分布Bi(r,p_1)にしたがっていることに注意しましょう。(これはこの問題の(1)で問われた事項です)
このときX_2=r-X_1なので、
Cov(X_1,X_2)
=Cov(X_1,-X_1+r)
=-Cov(X_1,X_1)
=-V(X_1)
=-rp_1p_2
これを満たすのは(G)と(J)です。
((J)もn=2では成り立つ)

ここで(G)と(J)を比較するためにn=2という制約を外して考えます。
このとき各X_iはやはり二項分布Bi(r,p_i)に従います。
したがって、V(r,p_i)=rp_i(1-p_i)です。
相関係数\rho(X_i,X_j)は、
\rho(X_i,X_j)=\frac{Cov(X_i,X_j)}{\sqrt{rp_i(1-p_i) \cdot rp_j(1-p_j)}}となります。
答えが(J)だとすると、
\rho(X_i,X_j)=-(n-1)\sqrt{\frac{p_ip_j}{(1-p_i)(1-p_j)}}
でこれは-1を超えることがあるので(例えば、p_i=p_j=\frac{1}{2} \,(n>2))、-1と1の間に入るという相関係数の性質に反します。
したがって
(G)以外に答えはない
ことになります。


二項分布の分散と共分散・相関係数については例えば「アクチュアリー試験研究WIKI」の以下のページなどをご参照ください。

二項分布の分散
http://actuary.upthx.net/pukiwiki/index.php?1.1.1.2.4.%CE%A5%BB%B6%B7%BF%B3%CE%CE%A8%CA%D1%BF%F4%A4%CE%CE%E3#cf402de2

共分散の性質
http://actuary.upthx.net/pukiwiki/index.php?1.1.1.3.2.%B6%A6%CA%AC%BB%B6%A4%C8%C1%EA%B4%D8%B7%B8%BF%F4#j437a029

相関係数の定義と性質
http://actuary.upthx.net/pukiwiki/index.php?1.1.1.3.2.%B6%A6%CA%AC%BB%B6%A4%C8%C1%EA%B4%D8%B7%B8%BF%F4#z0628ae6
http://actuary.upthx.net/pukiwiki/index.php?1.1.1.3.2.%B6%A6%CA%AC%BB%B6%A4%C8%C1%EA%B4%D8%B7%B8%BF%F4#w458846a



次回はこのシリーズの最終回です。