「生命保険会社の保険計理人の関与事項に関する研究」について

社団法人日本アクチュアリー会から
「生命保険会社の保険計理人の関与事項に関する研究」
(会報別冊第237号)
http://www.actuaries.jp/lib/annex_10.html
という本が刊行されています。


「保険計理人」とは保険業法第120条に規定される「保険料の算出方法その他の事項に係る保険数理に関する事項として内閣府令で定めるものに関与」する人として「取締役会において」「選任」された人のことです。


経理」ではなく「計理」
であることに注意しましょう。
新聞の経済面の記事あたりでも「保険経理人」と間違われることが多いのですが、
(例えば
http://plus.yomiuri.co.jp/article/words/%E4%BF%9D%E9%99%BA%E7%B5%8C%E7%90%86%E4%BA%BA

業界関係者(またはそれを目指す方)としては特に注意したいところです。


この本の中に特に私の目を引いたのは、
なぜ「経理」ではなく「計理」か
というくだりです。

「『保険計理人』の名称は昭和12年の保険業法改正調査委員会の答申で用いられていたが、これは、保険アクチュアリーが単に会社決算における「会計・経理」の担当者に止まらず、商品設計、価格設定など保険数理全体に責任ある者とするために、『計理』の表現を用いたことによるものである。」
(同書6ページ)
のだそうです。
私もこのことは初めて知りました。


それはよいのですが、この本の中身で一つ注意する必要のある箇所があります。

同書の1−13ページで
「なお、旧法では、生命保険会社にのみ保険計理人の選任を義務付けていたが、損害保険会社でも長期の保険契約の取扱いなど保険計理人の判断が必要となる分野が大きくなると考えられることから、契約者配当等を行うことを約した保険契約(積立保険等)や保険期間が長期で保険料や責任準備金算出に保険数理の知識・経験を要する保険契約(介護費用保険等)を取り扱う損害保険会社にも、保険計理人の設置が義務付けられている。」
とある部分です。


1996(平成8)年の保険業法の全面改正時に確かに上記のような内容の改正が行われているのですが、保険計理人の選任を要する損害保険会社の範囲はその後の改正でさらに拡大しており、事実上すべての*1損害保険会社(外国損害保険会社等を含む)が対象となっています。

保険業法
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H07/H07HO105.html
(保険計理人の選任等)
第百二十条  保険会社(生命保険会社及び内閣府令で定める要件に該当する損害保険会社に限る。第三項及び第百二十二条において同じ。)は、取締役会において保険計理人を選任し、保険料の算出方法その他の事項に係る保険数理に関する事項として内閣府令で定めるものに関与させなければならない。
2,3 略

保険業法施行規則
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H08/H08F03401000005.html
(保険計理人の選任を要する損害保険会社)
第七十六条  法第百二十条第一項 に規定する内閣府令で定める要件に該当する損害保険会社は、次の各号に掲げる保険契約のみを引き受ける損害保険会社を除くすべての損害保険会社とする。
一  自動車損害賠償保障法第五条 (責任保険又は責任共済の契約の締結強制)の自動車損害賠償責任保険の契約
二  地震保険に関する法律第二条第二項 (定義)に規定する地震保険契約


このブログは主たる対象をアクチュアリー試験の1次試験の受験者としており、「保険計理人」については2次試験の話題なのですが、皆様が(特に生命保険業界において)この本を読まれたり、あるいはこの本を読まれた先輩・同僚の方などと話されたりすることは上記の事情にご注意くださればと存じます。

*1:地震保険自動車損害賠償責任保険自賠責保険)だけを販売する会社であれば不要ですが、そのような会社はないからです。(2010/2/23追記 左のように書いたのですが、各社からの地震保険再保険を引き受ける専門会社である「日本地震再保険株式会社」が保険計理人の専任が不要な日本で唯一の損害保険会社となります。ただし、この会社は一般の損害保険会社ではなく、各損害保険会社からの出資で設立された会社です。したがって、「事実上すべての」といってよいと考えます。)