日本アクチュアリー会「標準生命表」について

今日は日本アクチュアリー会が作成している(生命保険の)標準生命表について述べたいと思います。
一定以上の知識・経験のある方には既知の話ですが、ご容赦ください。


保険業法第116条
http://www.nn.em-net.ne.jp/~s-iwk/2010-04-01/hou/a116.html
には、

第116条(責任準備金)
2.
長期の保険契約で内閣府令で定めるものに係る責任準備金の積立方式及び予定死亡率その他の責任準備金の計算の基礎となるべき係数の水準については、内閣総理大臣が必要な定めをすることができる。

とあって、それを受けて

標準責任準備金の積立方式及び計算基礎率を定める件(平成8年大蔵省告示第48号)
http://www.nn.em-net.ne.jp/~s-iwk/2010-04-01/H08-048/index.html

1.
責任準備金の積立方式、予定死亡率及び予定利率の水準は、次に定めるところによる。

予定死亡率は、保険業法(以下「法」という。)第122条の2第1項の規定により指定された法人*1が作成し、金融庁長官が検証したものであり、次のとおりとする。

平成19年3月31日までに締結する保険契約 生保標準生命表1996(死亡保険用)又は生保標準生命表1996(年金開始後用)の死亡率の欄に掲げる率

平成19年4月1日以降締結する保険契約 生保標準生命表2007(死亡保険用)、生保標準生命表2007(年金開始後用)又は第三分野標準生命表2007の死亡率の欄に掲げる率

とされています。


ここで何度も出ていることですが、この標準生命表は「責任準備金」*2つまり貸借対照表の負債勘定の金額を決めるために用いられるなものです。


負債の金額の決定に用いるものなので、会計上の「保守主義の原則*3が適用され、死亡率は(死亡保険に使う場合には)高めに補整されています。(年金等の生存保険に使う場合は逆に低めに設定)

(2010/4/3 17:42 注:
国際財務報告基準(IFRS)が導入されると、保守主義の原則は見直され、したがって上記の法令が抜本的に見直される可能性もあります。
これは現行の会計基準においてはこうだということを述べていることをご理解ください。
詳細については、
http://d.hatena.ne.jp/equilibrista/20100402/p1#c
のコメントをご参照ください。)


例えば
http://www.actuaries.jp/info/seimeihyo2007_B3.pdf
の3ページには、

変動予測を超える確率を約2.28%(2σ水準)におさえるように補整(中略)粗死亡率*4の130%を上限として補整した。

とあります。
つまり簡単な数式で書くと、
min(補整前の死亡率+標準偏差×2,補整前の死亡率×1.3)
として計算していることになります。
より詳細なプロセスについては、
日本アクチュアリー会会報別冊第228号
「標準生命表2007の作成過程」
http://www.actuaries.jp/lib/annex_09.html
としてアクチュアリー会会員でない方でも2,000円で購入可能です。(会員は1,200円)
別段アクチュアリー会は作成プロセスを秘匿しているわけではないことに留意する必要があります。


ここで重要なことは、
標準生命表は会計上の負債金額の決定に関する縛りであり、保険料の決定とは直接に関係していない
ということです。
もちろん、標準生命表とまるで乖離した保険料決定はありえないですが、かといって、保険料決定にあたってこの標準生命表をガチガチに守らなければならないということでもありません
現に、保険毎日新聞2006年11月30日 日刊 3面
http://www.homai.co.jp/kotoba/kotoba/50on/hi-hyoujunseimei.htm
によると

大手各社のいわゆる準有配当商品では標準生命表よりやや低い予定死亡率が用いられており、無配当保険商品ではさらに低い予定死亡率が使われているようだ。

とあります。


ところが、「標準生命表」が保険料決定の縛りとなっているかの如き記述に出会うことも少なくありません。
例えば、
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20100217
で取り上げた*5岩瀬大輔さんの「生命保険のカラクリ」(isbn:4166607235)の128ページ〜129ページには

保険会社が保険料を算出する際に、各社が使用している共通の死亡率をまとめたのが、「標準生命表」である。日本アクチュアリー会という、保険数理の専門家集団が作成している。

とあるといった具合です。


生命保険料の高さの原因を標準生命表に求めるのは、
会計基準のせいで物価高
という議論に近いのではないかとも考えられます。

*1:引用者注:現在のところ指定を受けているのは「社団法人日本アクチュアリー会」だけです。

*2:責任準備金については例えば http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20100109 をご覧ください。

*3:例えば http://financial.mook.to/accounting/02/kg/kg-k08.htm をご参照下さい。

*4:引用者注:経験値から得られた補整前の死亡率

*5:これで3回目でしょうか?