「昭和スタイル」に対する独断と偏見

今回もアクチュアリー(試験)との相関が低いのですが、今週号の「週刊文春」の記事OB訪問を中心とする就職活動に関する記事が掲載されており、本ブログの読者に中にも来年(今年の暮?)以降就職活動(OB訪問等)を始められる方がいるかと思い、その記事の概要をご紹介し、それに対する独断と偏見を記したいと考えた次第です。


エイプリルフール(4月1日)に発売された「週刊文春
http://www.excite.co.jp/News/magazine/MAG6/20100401/142/
「内定が欲しけりゃ「昭和スタイル」で行け−決まる学生、決まらない学生」
という記事が出ていました。


記事の一部をご紹介すると*1

1.内定を取るためのコツは「昭和スタイル」。(ある会社の人事担当者の話として)「根性」「礼節」「配慮」。これだけで(内定を)決めているようなもの
2.具体例として
(1)ある大手食品メーカー(だったと思います)の内定者は、OB訪問を相手に嫌がれるまで何度も要請した。
(2)ある地方大学生が、大手損害保険会社*2の地元の拠点*3に先輩がいなかったため、営業所を直接訪問した。しかも昼休みに訪問するという「配慮」を見せた。
(3)パソコンを持っておらず、ネットを使っていない学生が、図書館で社史や業界本等を徹底的に調べ上げ、社員も知らないような社史を披露し驚かれたこともある。結果素材メーカーに内定。
3.OB訪問を「忙しい」といって断られても粘り強くアタックしよう
4.ネットやマニュアルだけをうのみにしないにしよう。


週刊文春」という雑誌を読まれている学生さんはそれほど多くないのかもしれません。しかし、この記事の著者森健さんは、「就活って何だ」( isbn:4166607154*4の著者でもあり、かつ、同書は2010年3月7日の日本経済新聞・朝刊「今を読み解く」でも掲載されたそうなので、本記事と同様のスタンスが同書でも展開されていると想像されます。


それを踏まえて最初に結論だけ申し上げると、
もはや昭和ではない*5ので、中途半端な「昭和スタイル」なら(今日を限りに)やめられたほうがよい
と思います。


上記で挙げられている具体例が、特に「礼節」「配慮」の面で検討すべき点が多いのではないかと考えるからです。以下このような観点を中心に独断と偏見を申し上げたいと思います。

A.OB訪問

まず、「OB訪問」に対して昼休み云々を「配慮」という以前に
「OB訪問」を受け入れていることが「OB」の学生さんに対する多大な配慮
であることに留意する必要があると思います。
受け入れているOBは、基本的に(通常就業時間外の)訪問を受けても給料が増えるわけでも、評価があがるわけでも、他の仕事量が減るわけでもありません。
このような中で本当は1回の訪問でもOBにとっては負荷が大きいのに、それを何度も求めるということ自体が、「礼節」「配慮」という面でいかがなものかと考えます。
また、どんなに忙しくても、普通は、上記3.で書いたように「忙しい」といって断られることはそれほど多くないのではないかと考えます。それは当のOB自身もそのようなことを経験している場合が多いことと、人事から「OB訪問」は快く受け入れましょうといわれ(てい)ることが多いためです。(そしてそれは、別に広く人材を集めようという趣旨と共に、お断りすることによる会社のイメージへの影響を鑑みてという要素も大きいのではないかと思料されます。)
それでも上記2.(1)で嫌がられたり断られたりするというのは、
(a)その会社がOB訪問を受け入れる余裕がないほど切羽詰まっている
(b)余程執拗に訪問要請する等依頼の仕方に著しく「礼節」を欠く
のいずれかではないかと思料いたします。
これは「根性」が「礼節」「配慮」に優先したと解釈されるかと思いますが、入社後このような「根性」だけで営業しても恐らくほとんど成果を得ることはできないでしょう。*6
私もかつてそのようなOB訪問を受けたことがあります。最初ある後輩を訪問して「他に誰か紹介」ということで私にまわってきました。その次にまた他に誰か紹介してほしいということでしたので、さすがにこれ以上他の先輩方にご迷惑をかけるわけにもいかないので、紹介できる人がいないということで、丁重にお断り申し上げました。公務員の「渡り」が問題になっていますが、「OB訪問の渡り」も感心しません。「渡られた」相手からすると、「お前に聞いても満足できなかったから次」と言われているようにも感じあまりいい気持ちがしません。
そのOBのことを会社に連絡しなかったのも言うまでもありません。(悪い人とも報告していませんが)


もちろん、学生さんが会社の中の人の話を聞きたいということは理解できることであり、上記のような事情から基本的には「快く」応じてはくれると思うのですが、それは最小限度(基本的には1回)にとどめ、また事前に質問内容をメールで伝えておくこと等が「配慮」ある行為ではないかと考えられます。
まさしく、徒然草
http://d.hatena.ne.jp/tsureduregusa/20090421/1240294120
にいう
「一矢に定むべしと思へ」
なのです。

B.昼休みの訪問について

次に2(2)の「配慮して昼休みに訪問」ということについてですが、
それは、
昼休みはサラリーマンのゴールデンタイム
という重大な事実を見落としていると考えます。
すなわち、電話等が少ない昼休みこそ各自がマイペースで活動(食事、余暇、休息、仕事)できる時間であり、それを妨害するのは、「配慮」という点でいかがなものかと思料されるところです。しかもご本人はもとより、筆者(森さん)も週刊文春編集ご担当者各位もこのことを「配慮」とされていることに強い違和感を感じます。
昼休みの電話や訪問をしないのは、マナーの初歩であると理解しており、そのことは森さんや週刊文春編集ご担当者各位も当然ご存知だと思うのですが・・・
この場合は当然その拠点に事情を説明して電話*7して、スケジュール調整するのが筋でしょう。
とにかく「昼休みが暇」とか早合点すること自体が、特に「配慮」という点でいかがなものかと考えるところです。

C.社史の披歴について

当然就職先のプロフィールその他を学習することは必要ですが、その目的は、相手と話してしどろもどろにならないためであり、従業員も知らないようなマニアックな知識を披歴することではないと考えます。
当然従業員であれば、学生さんが自分の会社の商品その他に関する知識についてよく知らない点があることは承知の上です。それらは入社後の研修でいくらでもキャッチアップできますから。
逆に、業界についてあまり通じていらっしゃらない方が書かれた書物等で中途半端かつ間違った知識を得た場合、それを矯正する方が大変です。
この場合は社史なので、間違って覚えていても大して害にはならないのでしょうが、逆にその程度の知識に過ぎないのではないでしょうか。(だからこそ従業員も知らない訳です)

D.パソコン・ネットの不使用について

上記の社史を披歴した人は、図書館の本を調べた理由を「パソコンもネットも使っていない…」と筆者(森さん)に語っています。
このブログを読まれている皆さんは当然ネットを使ってこの記事を見ているので無関係でしょうが、いまどきパソコンを使っていないことを堂々と話すと、その時点でお引き取りいただく会社もあるのではないかと危惧します。(内定を得た素材メーカーではパソコンを使わない?)
当然ながら、アクチュアリー業界でパソコンなしで1日*8たりとも業務を遂行できません。他の多くの業界でも同様でしょう。
もちろん学生さんなので経済的理由からパソコンを持てないということもあるかも知れません。ただし、その場合でも、学校のパソコン関連の授業をとる等のキャッチアップの方法はいくらでもあると考えます。少なくとも自分から堂々と語る話ではないのではないでしょうか。
また、ネットから得られた知識だけに頼るというのがよくないのは言うまでもないですが、ネットの知識をまったく使わないというのも同じくらい問題があるのではないかと考えます。

E.アクチュアリー採用との関連

なお、アクチュアリー採用について述べますと、上記の3要素以前に「数学」が重要になってくるのは言うまでもありません。*9アクチュアリー採用の場合は、OB訪問等の「予選」のステップが少ないということがあります)


前にも申し上げましたが、アクチュアリー採用を受けようとされる方は、
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20100113
でも述べた

3個のさいころを同時に投げる試行をn回繰り返す。このとき、3個中少なくとも2個の目が1であるという事象がn回のうち奇数回起こる確率をPnとする。このとき、Pnは?

のような問題を解けるようにしてから試験に臨まれることが「礼節」ではないかと考える次第です。

F.最後に

上記の最後には「マニュアルだけに頼らない」とありますが、森さんの記事・本も上記の「独断と偏見」と同様「マニュアル」の類であることには変わりなく、
ご自身で十分咀嚼された上で使用
されることを希望します。

*1:あくまでも立ち読みで覚えている範囲なので細かい表現等についてはご容赦ください

*2:記事中では実名入り

*3:営業所かサービスセンターかそもそも記載していなかったか忘れました

*4:同書の書評については http://d.hatena.ne.jp/power-ocean/20090923 の特に「後半」を読まれることをお薦めいたします。

*5:「もはや戦後ではない」というのは戦後11年後の1956年の経済白書に掲載されていますが、それは、雑誌に先に掲載されたものだそうで、その雑誌とはなんと『文藝春秋』だったことを今回初めて知りました。 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E9%87%8E%E5%A5%BD%E5%A4%AB

*6:例えば、私やその周囲にも「根性」の営業電話が何度かかかってくることがあるのですが、もちろんそれらが営業実績につながることは全くありません。

*7:もちろん昼休みを除く常識的な就業時間内に

*8:本当は「1秒」と書きたいところですが、会議等があったりするので・・・

*9:もちろん数学だけできていればいいというわけではないので念のため