アクチュアリー試験受験の知恵(7)

今回は、「分割」というテーマで考えてみたいと思います。

フランスの哲学者・数学者であるルネ・デカルトは、著書「方法序説」の中で「困難は分割せよ」と説いたそうです。

アクチュアリー試験においてもこの原則を適用できることがあります。

アクチュアリー試験の問題では、n個のサイコロの目の数やn個のコインを投げて表の出た回数などを確率変数とみる問題がよく出題されます。その際に1個ずつにばらして考えあとで結合するとうまくいくことがあります。
確率分布の再生性(*)というのも、n個の問題を1個ずつの問題にするための手法と考えることができます。

以下のような問題(例によって過去問からです)を考えてみます。
「サイコロをn(n \ge 2)振って1の目が出る回数をX、6の目が出る回数をYとするとき、
共分散Cov(X,Y)=\fbox{ }である。」
類題として相関係数を問う問題が出題されたこともあります。

この問題の(過去問題集における)解答では、多項定理を用いていますが、厄介な計算になっています。
そもそも多項定理を知っていなければそれで終わりです。
(実をいうと私は試験を受けたときに多項定理の存在は知っていたけど積極的に覚えなかったし、今試験を受けることになっても同様だと思います。)

当然多項定理など必要としない計算方法があります。
1回ずつのサイコロの目に分割して考えます。

X_i,Y_i をそれぞれi回目にサイコロをふって1及び6の目が出る回数とします。
当然ながら、
P(X_i=1)=P(Y_i=1)=\frac{1}{6}
P(X_i=0)=P(Y_i=0)=\frac{5}{6}
であり、
E(X)=E(Y)=\frac{1}{6}
であることは容易に分かります。

また
i \ne jのとき、X_iY_jは独立であり、
E(X_i \cdot Y_i)=0となります。(同じ回で1と6の目が同時に出ることはないから)

ここで、
X=X_1+X_2+ \cdots +X_n
Y=Y_1+Y_2+ \cdots +Y_n
であり、
E(X)=E(Y)=\frac{n}{6}
です。

さて、
Cov(X,Y)=E(XY)-E(X)E(Y)
ですが、問題はE(XY)の導出です。

まず、E(X_i \cdot Y_i)=0であることから
E(XY)=E \{ (X_1+X_2+ \cdots +X_n)(Y_1+Y_2+ \cdots +Y_n) \} =E(\sum_{i \ne j}X_i \cdot Y_j)
となります。

次に、X_iY_jは独立であることから
=E(\sum_{i \ne j}X_i \cdot Y_j)=\sum_{i \ne j}E(X_i \cdot Y_j)=\sum_{i \ne j}E(X_i)E(Y_j)
です。
i \ne jのとき、
E(X_i)E(Y_j)=\frac{1}{36}であり、
i \ne jとなる、(i,j)の個数は、n^2-n個(全体の個数からi=jの個数を引く)なので、
E(XY)=\frac{n^2-n}{36}
となります。

したがって、
Cov(X,Y)=E(XY)-E(X)E(Y)=\frac{n^2-n}{36}-(\frac{n}{6})^2=-\frac{n}{36}
です。

次回はこの問題について別の考え方を紹介したいと思います。

(*)ちなみにアクチュアリー試験の数学においては、
2項分布、ポワソン分布、負の2項分布、正規分布、ガンマ分布
の5つの再生性を覚えておくことが望まれます。(カイ2乗分布の再生性はガンマ分布の再生性に含まれます。)