アクチュアリー試験に役立つ知識(2)

今回は最尤推定量について考えてみます。


結論から先に申し上げると次のようになります。
最尤推定量の問題は基本的には平均値を求めに行く。(二項分布、ポアソン分布、指数分布、正規分布など)
ただし、(ほとんど唯一といってよい)重要な例外は一様分布でこの場合は最大値


例によって過去問から2つ取り上げます。


(例題1)
「ある都市から無作為にN世帯を抽出したとき、そのうち家庭用ゲーム機を保有する世帯数は、二項分布Bi(N,p)に従うものとする。
この都市において15人の調査員がおのおの30世帯を回ってアンケートを実施した結果、全世帯から解答が得られ、家庭用ゲーム機を保有している世帯の数は調査員別に以下のとおりであった。なお、各調査員は全世帯から無作為に抽出した世帯に対してアンケートを実施しており、各調査員の調査結果は独立であるものとする。

調査員 A B C D E F G H I J K L M N O
ゲーム機を保有する世帯数 7 4 9 5 13 5 11 6 7 10 5 10 5 7 8

このとき、p最尤推定量として適当なものは□である。
(小数点以下第3位を四捨五入し、小数点以下第2位まで求めるものとする。)


(選択肢省略)」

この問題は、尤度関数を作って対数をとって微分するというのがオーソドックスの形(解答例でもそうなっています)なのですが、
「二項分布からの標本の最尤推定量は平均値」
という事実を知っていれば一直線に平均値を求めに行けばよいことになります。
\hat{p}=\frac{7+4+9+5+13+5+11+6+7+10+5+10+5+7+8}{30*15}
=\frac{112}{450}=0.248 \cdots \rightarrow 0.25
となります。

(例題2)
「一様分布U(0,b)からの大きさnの標本について、パラメータb最尤推定量をYとする。このとき、aYbの不偏推定量となるような定数aは□である。
(A) 1
(B) 2
(C) n
(D) 2n
(E) \frac{n-1}{n}
(F) \frac{n+1}{n}
(G) \frac{2n-1}{n}
(H) \frac{2n+1}{n}

この場合は、上記のように最尤推定量は最大値になります。


http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20081111
に述べた

(命題)
X_1,X_2, \cdots ,X_nを一様分布U(0,1)に従う独立な確率変数とし、
M=\max(X_1,X_2, \cdots ,X_n)
N=\min(X_1,X_2, \cdots ,X_n)
とするとき、
E(M)=\frac{n}{n+1},E(N)=\frac{1}{n+1}

を覚えていらっしゃれば、

Y=\max(X_1,X_2, \cdots ,X_n)=b \cdot \max(Z_1,Z_2, \cdots ,Z_n)
(ただしZ_1,Z_2, \cdots ,Z_nは、独立に一様分布U(0,1)に従う確率変数)
E(Y)=E \{ b \cdot \max(Z_1,Z_2, \cdots ,Z_n) \} =\frac{bn}{n+1}
つまり、
E(aY)=\frac{abn}{n+1}=b
を満たすので、
a=\frac{n+1}{n}
として解けます。


それをご存知なくても、選択肢を有効活用して解くことが可能です。


標本をX_1,X_2,\cdots,X_n,\cdotsとします。
n=1のときを考えると、最尤推定量は、X_1であり、E(X_1)=\frac{b}{2}
したがってa=2であり、これを満たす選択肢は、(B)・(D)・(F)の3つだけです。


次に、最尤推定Y=max(X_1,X_2,\cdots,X_n)は、(最大値であることに注意すると)nを限りなく大きくすると、bに収束すると考えられるので、
\lim_{n \to \infty}a=1
これを満たすのは、(F)だけです。