アクチュアリー試験に役立つ知識(8)

今回はコーシー・シュワルツ(Cauchy-Schwarz)の不等式をとりあげます。


コーシー・シュワルツの不等式とは、
「実数a_1,a_2, \cdots ,a_n,x_1,x_2, \cdots ,x_nに対し、
(a_1x_1+a_2x_2+ \cdots +a_nx_n)^2
\le (a_1^2+a_2^2+ \cdots +a_n^2)(x_1^2+x_2^2+ \cdots +x_n^2)
かつ、等号の成立は、ある定数\alphaが存在して
(a_1,a_2, \cdots,a_n)=\alpha(x_1,x_2, \cdots ,x_n)とかける場合のみ。」
というものです。


高校数学で習ったと思われる事項ですが、これを使わずにもっと程度の高い(?)道具に手を出すケースが少なくないようです。


この問題の適用例を考えてみましょう。当然過去問からです。

(問題)
X_1,X_2\cdots,X_nが互いに独立でいずれも母平均\thetaの不偏推定量とする。

(1) Y=\sum_{i=1}^na_iX_i\thetaの不偏推定量であるために必要なa_1,\cdots,a_nの条件を求めよ。

(2) 各X_iの分散が母分散\sigma^2であるとする。Y=\sum_{i=1}^na_iX_i\thetaの不偏推定量であるとき、V(Y)を最小とする(a_i,\cdots,a_n)およびV(Y)の最小値を求めよ。

まず(1)ですが、
\theta=E(Y)=\sum_{i=1}^na_iE(X_i)=\theta \left(\sum_{i=1}^na_i \right)
が成り立つので、
\sum_{i=1}^na_i=1・・・(a)
が答えです。

問題は(2)です。
V(Y)=\sum_{i=1}^n a_i^2V(X_i)(∵各X_iは独立)
=\sigma^2 \left(\sum_{i=1}^na_i^2 \right)
となるので、
(a)の条件の下で、
=\sum_{i=1}^na_i^2
の最小値を考えればよいことになります。

コーシー・シュワルツの不等式より、
(a_1 \cdot 1+a_2 \cdot 1+ \cdots +a_n \cdot 1)^2
\le (a_1^2+a_2^2+ \cdots +a_n^2)(1^2+1^2+ \cdots +1^2)
で等号は、
ある定数\alphaが存在して
(a_1,a_2, \cdots,a_n)=\alpha(1,1, \cdots ,1)とかける場合のみなので、

a_1=a_2= \cdots=a_n=\frac{1}{n}のとき最小値をとり、
そのとき、
V(Y)=\frac{\sigma^2}{n}であることがわかります。


過去問題集の答えでは、これをラグランジュ(Lagrange)の未定乗数法を用いて解いています。
むろんそれでも解けないことはないのですが、
コーシー・シュワルツの不等式を使うと早くかつ確実に解けます