「ソクラテスの人事」での問題

先日
マークシートの罪」とその周辺に関する論考
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20090331
として、脱線していたところですが、昨日(4/2)放送された「ソクラテスの人事」というNHKの番組で、面白い問題が出題されていて、前回考えていた「考え方」と「表現」の違いとも関連することなので、「脱線の脱線」となることをお許しください。


ソクラテスの人事」
http://www.nhk.or.jp/jinji/
という番組はゲストやNHKのアナウンサーが各会社の採用試験問題に取り組んでいく番組です。


実際の人事担当者がスタジオにきて、自社の問題を出題し、「採用」者を決定するのですが、今回とりあげる問題は、その「前置き」として出題されたもの(アメリカのIT企業「セールスフォース社」の入社問題だそうです)で、概要次のとおりです。

「ある飲料の提供装置には、『ジュース』、『ミルク』、『お楽しみ』(ジュースとミルクがランダムに出る)の3種類の飲料がある。ボタンが3つあって、それぞれに『ジュース』、『ミルク』、『お楽しみ』と表示されているが、この表示が全部違っている(表示どおりの飲料ではない)ことだけが分かっている。(実際にどの飲料かはボタンを押して飲料を出してみないと分からない)
ボタンを押して飲料を出すことによって、ボタンに正しく対応する飲料を知りたい。
最小何回押せばよいか。」


これは正解は「1回」で

「『お楽しみ』のボタンを押してミルクが出た場合は、
『お楽しみ』の箇所の本当の飲料は『ミルク』
(問題文の条件『お楽しみ』でランダムに『ミルク』が出てくることはありえないので)
『ミルク』の箇所の本当の飲料が『お楽しみ』だと『ジュース』の箇所の本当の飲料はやはり『ジュース』となり問題文の条件に反する。
したがって『ミルク』の箇所の本当の飲料は『ジュース』で、『ジュース』の箇所の本当の飲料が『お楽しみ』
『お楽しみ』のボタンを押してジュースが出た場合は、上記の議論で『ミルク』と『ジュース』を入れ替えればよい。
」・・・(a)

というものです。


ただし、上記(a)は、思考したあとの「結果」を示すものにすぎません。
本当に問題となるのは、
「なぜそのような論理展開に至ったのか」
ということで、それは語られていません。(番組でも語られませんでした)


本問について、私は、次のように「考え」ました。
「この問題の出題者は、何らかの意外性をねらったものであると考えられる。
一番『意外』な答えは0回。それは、問題自体がひっかけ問題(『実は、飲料がこぼれて見えていた』など)でそれはなさそう。*1となると、
答えは1回だろう。
1回で判別するとすればどうすればよいか?
『ジュース』を押した場合、『ジュース』が出ると『お楽しみ』であることが分かるが、『ミルク』が出た場合は、本当に『ミルク』なのか『お楽しみ』で『ミルク』が出たのか分からない。
『ミルク』を押した場合でも同様となると1回目は『お楽しみ』を押すしかない。
*2・・・(b)


このように考えてから上記(a)の論理展開に持っていくわけです。
もちろん記述式答案では(b)は書けないわけですが、本当の「思考」は(b)にあるわけです。


また、この問題では、(理系の)大学教授や数学科出身のアナウンサーが108回、6回*3という答えを出していましたが、このブログを読まれている方であれば、それらは「ありえなさそうな」答えとして却下されることでしょう。


つまり、これまでアクチュアリー試験の「例の解法」として述べてきた
(1)答えの予測をつける
(2)出題者の心理を読む
(3)間違いの答えを弾く
という考え方の活用はアクチュアリー試験以外でも活用可能だと考えられます。


なお、
(1)について言うと、
Yahoo!掲示板で「論証問題に使える」
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q149651984
というような問答がありましたが、もっと幅広く適用できることはこれまでこれまで何度か述べてきたところです。


次回は、(何もなければ)
「出題者心理から見た入試数学」(isbn:4062576171
について考える予定です。

*1:ちなみに表示が2種類しかないと答えは0回になります

*2:なお、暗黙のうちに仮定していることとして、答えは「非負の整数値」ということがあります。

*3:6回について考察すると、中身に並べ方が3!=6ということだと思います。ただし、6通りの中には表示と中身が一致する場合も含まれます。表示と中身が全部違う並べ方は2通りしかないことがすぐ分かるので、6回もかかるのはおかしいと予想がつきます。