平均余命と平均寿命の話(生保数理の基礎)

今日は予定を変えて、生命保険数理(生保数理)の基礎の話をします。
(生保数理を勉強されている皆様には自明ですが、ご容赦ください。)


池田信夫さんのブログ
団塊の世代は逃げ切れるか」*1
http://agora-web.jp/archives/896385.html
が、はてなブックマーク
http://b.hatena.ne.jp/entry/agora-web.jp/archives/896385.html
されていますが、そこの文章では、
団塊の世代(62歳前後)の平均寿命はあと30年ぐらいあるが、これは乳幼児死亡率を含めた平均なので、実際にはもう少しあるだろう。」
となっているところ、今*2ブログの文章を確認すると
団塊の世代(62歳前後)の平均余命はあと23年(男性20年、女性26年)だが」
とされていました。


2010/1/21 7:36 (JST)追記
(1)
http://twitter.com/ikedanob/status/7980213771
によると、
s_iwkさん(アクチュアリー)の
「60歳の平均余命は男性22年、女性28年です(平成18年簡易生命表)」
http://twitter.com/s_iwk/status/7979500180
というtweetを受けて池田さんはブログを修正されたようです。
(2)今ブログを拝見すると
「追記:正確な「平均余命」に修正した。」
とありました。
2010/1/21 7:34(JST)現在
http://megalodon.jp/2010-0121-0734-01/agora-web.jp/archives/896385.html
「乳幼児死亡率を含めた平均なので、実際にはもう少しある」
の部分については言及がないようです。


後者の方が正確な表現ですが、これから生保数理を勉強される方も又は生保数理とは現在及び将来において無縁の方が誤解なさるといけないので、
平均余命と平均寿命の違い
を確認しておきましょう。


ごく簡単に次のようなモデル*3を考えます。

年齢 0 1 2 3
生存人数 100人 50人 20人 0人

また、死亡は年の中央で起こるとします。(例えば、0歳〜1歳の間で死亡する50人は全員0.5歳で死亡)


1歳で生きている50人が平均であと何年(歳)生きるか考えます。
余命があと0.5年(歳)の人(1.5歳で死ぬ人)が30人
余命があと1.5年(歳)の人(2.5歳で死ぬ人)が20人
なので
(0.5×30+1.5×20)÷50=0.9年(歳)
となります。


これを
1歳の人の平均余命は0.9歳
と表します。


この要領で
2歳の人の平均余命は0.5歳(2歳まで生き残った人の全員があと0.5年(歳)で死ぬので)であり、
0歳の人の平均余命は、
余命があと0.5年(歳)の人(0.5歳で死ぬ人)が50人
余命があと1.5年(歳)の人(1.5歳で死ぬ人)が30人
余命があと2.5年(歳)の人(2.5歳で死ぬ人)が20人
であることから、
(0.5×50+1.5×30+2.5×20)÷100=1.2歳
となります。


0歳の人の平均余命を特に「平均寿命」といいます。
(逆にいうと0歳以外で「平均寿命」というのは、生保数理的には正しくありません。


数学的に踏み込むとx歳の平均余命とは(x歳まで生きたと条件下での)条件付期待値であり、
「乳幼児死亡率を含めた平均」
ではないのです。

なお、平均余命(寿命)の見つけ方ですが、例えば、厚生労働省の(簡易)生命表\stackrel{{\,}_{\circ}}{e}_xと書かれている部分が該当します。
平均寿命という欄がない理由は上記のことでお分かりかと思われます。)


例えば
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life08/index.html

http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life08/xls/seimei.xls
「平成20年簡易生命表」で62歳の「平均余命」を見ると
男性20.96歳、女性26.32歳
となっています。

*1:なお、このエントリーの内容自体はここでは論評しません。

*2:2010年1月20日午後8時(日本標準時

*3:生保数理用語では「定常社会」と言います。