(アクチュアリー試験にはあまり関係ない)再保険の話
アクチュアリー試験とは(あまり)関係ない話が連続してしまうことをご容赦ください。
twitterでtotorozさんから再保険に関するご質問
http://twitter.com/totoroz/status/8007584165
某大手生保3社の場合、保険料収入に占める再保険料収入の割合は0.02〜0.05%程度だったので、市場全体もその程度と考えてよいのでしょうか?…と、それ以前に再保険の対象となる生命保険って何なのでしょう?高額な保険商品と云えば…団体保険ですか?
をいただいたので、
再保険の基礎から初めて、再保険会計に関する生損保の違いと生命再保険の範囲について述べたいと考えます。
ただし、私は生保の専門家でも再保険の専門家でもないのでその点はご了解ください。
1.再保険とは
保険会社は先にお金(保険料)をもらうことによって他者のリスクを引き受ける(リスク・テイク)しているので、当然事故が起こったら保険金を支払わないといけないのですが、その額が自分の会社で払いきれないような額になる場合があります。
例えば、
大規模な自然災害(地震、風水災)による人の死亡・傷害や施設・家屋等の損壊
巨大な航空機・船舶・人工衛星等の損害
などがあります。
そのような場合に、別の保険会社と
(a)もともと引き受けてもらった契約で事故が発生して保険金の支払が生じた場合、その一部(又は全部)を別の保険会社に払ってもらう
(b)その代金として、その会社に保険料(再保険料)を支払う
ことを約束して、そのようなリスクの一部を(その会社に)移転し、自らの業績の安定化を図ることが、特に損害保険会社ではしばしばみられます。
そのような行為自体又は、そのとき結ぶ契約を再保険(Reinsurance)(契約)といいます。
再保険を引き受けることを「受再」(じゅさい*1)といい、再保険に出すことを「出再」(しゅっさい)といいます。
また再保険に対して保険会社が保険契約者(個人又は法人)と結ぶ保険契約またはそれによる収支を「元受」といいます。
再保険は保険会社の「損失」を填補するという性質があるため、日本の保険業法では(生命保険の再保険であっても)損害保険に分類されています。
(保険業法第3条第5項第1号。
例えば、
http://www.nn.em-net.ne.jp/~s-iwk/current/hou/a003.html
をご参照ください。)
ただし、生命保険の再保険については生命保険会社でも引受が可能とされています。(保険業法第3条第4項第3号。上記URLをご参照ください。)
2.損益計算書上の取扱
この再保険のやりとりが保険会社の損益計算書(P/L)にどう反映されるかを見ます。
生保では、(受)再保険料収入のみならず、再保険金*2、再保険手数料*3及び再保険返戻金*4を、全部合算して「再保険収入」とします。(「再保険料収入」ではないことに注意)
一方再保険料等は保険金等支払金に加算されます。
損保では、それぞれの科目(保険料、保険金、手数料)毎に再保険でのやりとりを加減している点が生保との違いです。
具体的には
正味収入保険料
=保険料(元受・受再)
−解約返戻金(元受・受再)
−その他返戻金*5(元受・受再)
−再保険料
+再保険返戻金
正味支払保険金
=保険金(元受・受再)
−保険金戻入*6(元受・受再)
−回収再保険金
+再保険金割戻*7
諸手数料及び集金費
=代理店手数料等+保険仲立人手数料+募集費+集金費
+受再保険手数料
−出再保険手数料
となります。
このような違いは、
(a)損保では)生保より相対的に)再保険が重要な位置を占めていること
(b)損保では「正味*8収入保険料」や「正味支払保険金」という概念を重視する*9こと
などによるものと考えます。
さて、大手の生命保険会社の「再保険収入/保険料等収入」の数値はtotorozさんのご指摘のとおりですが、生保業界全体の数字は、
http://www.seiho.or.jp/data/statistics/annual/index.html
の「損益計算書」で確認ができます。
平成20年度ではかんぽ生命・大和生命を除く44社ベースで約4%です。(1,142,854百万円/27,329,483百万円)
推測ですが、(受)再保険料収入よりも再保険金や再保険手数料がメインなのではないかと考えます。(ちなみに(支払)再保険料は1,695,739百万円)
また、上記のとおり、生命再保険は損保でも取り扱っておりそちらも相当のボリュームなのではないかと考えます。
例えば、日本社(日本損害保険協会加盟会社)の平成20年度の生命再保険の正味収入保険料は
http://www.sonpo.or.jp/archive/statistics/syumoku/excel/index/shumoku0903.xls
のシート「種目別保険料」では
18,474百万円
であり、
また、代表的な再保険専門会社の1つであるスイス再保険(Swiss Re)日本支店(日本損害保険協会には加盟していません)
http://www.swissre.com/resources/afd778004f9b6d9d9c65bc809c6df38b-SRJ%20Annual%20Report%202009.pdf
の4ページ目では、その他(火災、海上、自動車以外)の「正味収入保険料」が
10,712百万円
であり、その相当の部分が生命再保険ではないかと思量します。
また会社によっては、傷害保険*10の再保険として受再している可能性もあります。
3.生命再保険の対象
生保で再保険が使われる目的ですが、日本アクチュアリー会の2次試験のテキスト「生保1」第8章(平成19年6月版)再保険の8−2〜8−5ページによると
元受会社の保有*11限度額を超過する額を出再
巨大災害などに起因する保険支払の集積リスクを移転
経験のない保険引受リスクを移転
再保険料率をもとに競争的な元受料率を提供
という「伝統的な目的」の他
財務諸表の改善
特定のビジネスゴール(増資の抑制、課税所得の平準化、格付けの引上げ・安定、円滑な買収)の達成
付随的な目的(再保険取引を通じて再保険会社の専門的技能を活用)
という「非伝統的な目的」があるとされています。
つまり、対象となるリスクは巨大災害(地震・風水災)リスクや集積リスク(航空機の旅客の生命保険)のみならず、あらゆるリスクにわたるといってよいと考えます。
4.参考URL
以下の各URLも参考になるかと思われます。
http://www.seiho.or.jp/activity/publication/tora2007.html
http://www.sonpo.or.jp/archive/publish/sonpo/0004.html
http://www.toare.co.jp/html/yogo.htm
http://www.homai.co.jp/kotoba/kotoba/50on/si-syoumisyunyu.htm
http://www.hokenyougo.com/archives/2006/07/post_134.html
*1:音が出再と紛らわしいので、漢字の正式な読みではないですが「うけさい」ということもあります
*2:事故が生じて保険金を支払った場合に再保険契約によって出再保険者から受け取る
*3:受再会社が出再会社(元受会社)に再保険契約締結に対して支払う手数料
*4:元受契約が解約された場合等における再保険契約からの返戻金
*5:前年度以前の保険料の返還分等。当年度の保険料の返還は保険料のマイナスで処理
*6:前年度以前に支払った保険金等について残存物売却金、求償金等の回収金。当年度の回収金は保険金のマイナス
*7:前年度以前に受け取った出再保険金等について残存物売却金、求償金等の回収金として出再保険者に戻した額。当年度の回収金は再保険金のマイナス
*8:ここでは、受再保険を足して、出再保険を引いたという意味です
*9:特に正味収入保険料は損害保険会社の規模を見る指標となっています。
*10:医療保険は損保の保険種目上は傷害保険に区分されています。なお、今は生命保険業免許と損害保険業免許の2種類ですが、1996年の保険業法の大改正以前の損保では保険種目毎に事業免許があったこともあり、保険種目という概念が重視されています。