8.「円周率の定義」に関する考察

以上のことは、
http://researchmap.jp/index.php?action=pages_view_main&active_action=journal_view_main_detail&post_id=2042&comment_flag=1&block_id=78#_78
の本文とコメントで言及されている
「円周率πの定義」
というところで一層はっきりします。
(本文)

円周率πの定義が明確に言えるのは、中高大・社会人含めて半数を切ります。

(コメント)

ここでは、「円周率の定義」は、小学校5年生の「直径を1としたときの、円周の長さ」「円周の長さと直径の比の値」を正解としました

要するに小学校5年生の教科書での記述や先生が教えてくれた(はずの)ことを覚えているかどうかが問われているようです。

実は円周率の「定義」は大変難しいのです。*1
コメントで書かれている

なぜ円の大小によらず円周率がひとつに定まるのか

という点はもちろんのことですが、そもそも曲線の「長さ」をどう定義するか*2ということに高校までの数学ではまったく答えが出せません*3
それを考えることはほとんど「積分」を厳密に考える(高校で習うような微分の逆演算ではなく)ことになり、やはり大学の数学レベルの話になってしまいます。
また、円と関係なく例えば級数極限値としてπを定義することも不可能ではなく、そういう定義を正解として扱うのかという問題もあります。


ただし、

「直径を1としたときの、円周の長さ」「円周の長さと直径の比の値」

「共通認識を抱く」「人々」が一番多い(半数を切ったとしても)ことは確かだと思います。


(2010/2/3 追記)
twitterで崎村夏彦(_nat)さんから
http://twitter.com/_nat/status/8545519818

サージ・ラングの「さあ、数学しよう」(引用者注: isbn:4000055100 であると考えられます。)だったけな?そんな本があります。彼が小中学生に講義した講義録なんですが、良いですよ。πを半径1の円の面積とするのも、そこから。

と教えていただきました。
該当の記事
http://www.sakimura.org/modules/wordpress/index.php?p=666
とともに御紹介いたします。

*1:なお、√の「定義」もそれほど(πほどではないですが)簡単ではなく、例えば、\sqrt{2}を方程式x^2-2=0の解のうち正の方と「定義」するとして、そのような方程式の解が本当に「存在」するのか実は自明ではありません。そういうのを実数や関数の連続性を「定義」し、そこから「証明」したりする(いわゆる「実数論」)のが(数学科の)大学1年の授業だったりします。

*2:それ以前に直線の「長さ」から考えるべきかも知れませんが、それを追究すると数学科の大学3年位で履修する測度論(またはルベーグ積分論)まで行ってしまいます

*3:小学校でやっているような、円の周りに糸を巻きつけてその長さを測るとかいうのは、実生活上の知恵としてはそれでいいのですが、理論的な「定義」としては、そうやって巻いた糸が正確に円形になるということはありえないので採用できません。