アクチュアリーとBean Counter

(注)以下「訴訟」(1991年アメリカ。原題は"Class Action")という映画を取り上げます。リンクの中には、映画のストーリーの結末に関連する部分も含まれますので、そのことにご注意の上お読みください。


今日は予定を変更して、「アクチュアリーとBean Counter」というテーマで述べます。


弁護士の山田冬樹さん( id:yamada-home さん)が運営している「馬上行動 山田冬樹の部屋」の「トヨタを揺るがす内部文書が発覚」という投稿
http://d.hatena.ne.jp/yamada-home/20100223/1266945090

「訴訟」という米国映画がある。ジーンハックマン演ずる弁護士が、大手自動車企業の欠陥自動車が原因の死亡事故の遺族から、損賠*1 賠償事件の依頼を受ける。


(中略)


 遺族側は有力な証拠を見つけられず、訴訟は次第に不利になって行く。企業側が勝訴かと見られた終盤、ハックマンはその企業の元従業員を証人申請する。その証人は映画では「計算屋」。


 この「計算屋」(アクチュアリー=保険数理士の邦訳か)は、この欠陥車について、次のような計算をした。


 欠陥車台数、事故確率を試算し、これを基に敗訴件数を150件と想定。もしリコールしたら5千万ドルかかるが、事故が起きても賠償額は1件20万ドル程度、合計3千万ドルで済むと計算。

と述べられています。(太字引用者)


アクチュアリー又はそれを目指す皆様は、これをご覧になると、
自動車企業に「アクチュアリー」がいるのか?
と違和感を持ったのではないかと考えます。
以下、こちらで調べた内容とそれに基づく考察を示しますが、私は、映画そのものは未見なので、もし映画かDVDをご覧になった方で映画の内容に関して勘違いがあればご指摘いただけたらと存じます。


この映画
http://www.amazon.co.jp/dp/B001BAODM4/
の原題は"Class Action"で
http://video.barnesandnoble.com/DVD/Runaway-Jury-Class-Action/e/024543410744
にあるScene Indexをみると問題の尋問のシーンは(前後の文脈から)
"Disc #2 25. The Bean Counter"
と考えられます。


さて、"Bean Counter"は、"Accountant" を表わすスラングだそうですが、
http://onlineslangdictionary.com/definition+of/bean+counter
によると

usually derogatory;of someone interested in cost or income only and having no knowledge or interest in how thier*2 decision negatively impacts the final result.

(試訳:たいていは軽蔑のニュアンスを込めて、コスト又は収入だけに興味があって、自らの意思決定が最終的な結果にどのようなマイナスの影響を与えるかということについては、知識も関心も持っていない人のこと)
とあり、映画のストーリー展開からすると、まさしくこれがぴったりした説明なのではないかと考えられます。


また、
"Disc #2 18. A Simple Actuarial Analysis"
というのもあり、 id:yamada-home さんはおそらくここらあたりから、「アクチュアリー」という単語を持ち出したのだと考えます。


もちろん"Actuarial"は"Actuary"の形容詞形で日本語でも「アクチュアリーの」とか「アクチュアリー的な」という意味で「アクチュアリアル」と表記することもあります。
この映画では、

欠陥車台数、事故確率を試算し、これを基に敗訴件数を150件と想定。もしリコールしたら5千万ドルかかるが、事故が起きても賠償額は1件20万ドル程度、合計3千万ドルで済むと計算。

http://d.hatena.ne.jp/yamada-home/20100223/1266945090 より)
とあり、発生確率と平均の支払額を算出している方法はまさしく("Simple"とはいえ)"Actuarial"(保険数理的)なものであるともいえます。


ただし、
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20100109
でも述べたように、保険(年金)業における「原価の事後確定性」がアクチュアリーが存在する理由(レゾン・デートル)だと考えています。
先に収入(保険料)が入るので、ともすれば(保険料・掛金)収入をあげることのみに目がいきかねません。将来の保険金(年金)支出のリスクを示し、そのような「収入至上主義」ともいえる動きに歯止めをかけるのがアクチュアリーに課せられた役割の一つだと考えます。


したがって、アクチュアリーとは、まさしく(安易な保険の引受等による)「マイナスの影響」を引き起こさないようし、「最終結果」にまで思いを致さなければならない立場であり、"Bean Counter"とは真逆であらねばならないと考えます。
つまり、
「敗訴件数150件×賠償額20万ドル=合計3千万ドル」
というのは表面的には保険数理的な計算ですが、アクチュアリーは行わない、また、行ってはならない計算だと考えます。


以上のことから、"Bean Counter"を軽蔑のニュアンスを込めて、「計算屋*3と訳したのはまさに名訳であり、
"Bean Counter"(「計算屋」)は、「アクチュアリー=保険数理士の邦訳」ではない
と考えます。


なお、
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20100109
でも述べたあるように
アクチュアリー」を「保険数理士」
するのは「保険計理人」と誤解を生じるので、基本的には「アクチュアリー」のまま使います。

*1:原文ママ

*2:原文ママ。"their"でしょう。

*3: なお、「WEB映画館」 http://ethanedwards.blog51.fc2.com/blog-entry-1294.html では、単に「リスク管理部責任者…を証人に呼び」と記されています。