アクチュアリー講座と学習方針に関する問答

ブログの読者の方からアクチュアリー講座と学習方針に関するご質問を受けました。
ご質問者のお許しを得て、ご質問・回答の内容を編集して掲載いたします。
ご質問者の方は他の資格試験にも合格しており、その学習方針は他の受験者の皆様にも大いにご参考になると考えます。


A.アクチュアリー講座について
(ご存知の方も多いとは思いますが)
日本アクチュアリー会主催の講座
http://www.actuaries.jp/examin/traning.html
があります。
ただし、この講座は、
(1)受講料が1人10万円(だったと思います)かかること
(2)半年以上にわたり、週1〜週2ほぼ全日時間を割かれる
(3)会員でないと受講できないこと(基本的には1次試験に1科目合格しないと会員になれません。それ以外で会員になるためには正会員2名の推薦が必要です。)
ことから、基本的には保険会社の中でも限られた方(いわゆる「アクチュアリー採用」のような方)しか受講させてくれない(会社が認めてくれない)ことが多いのではないかと考えられます。

以上のような状況で、会社が受講を認めてくれるのであれば受講をすることはプラスになると考えます。(ただし、教科の一部で試験とは関係の薄いものがあるので要注意ですが)

これまでこの講座について特に述べなかったのは受講が認められる方が限定されることと、受講が合格のための必要条件でも十分条件でもないからです。

また、アクチュアリー会主催以外にもアクチュアリー講座がいくつかあります。
私の知る限り
庄司キャリアコンサルティング
http://www.shoji-cc.jp/course/
損害保険総合研究所
http://www.sonposoken.or.jp/content/view/full/2794
東京理科大学
http://www.tus.ac.jp/manabi/kouza.php
などがあります。
(他にも日本大学などで社会人向けのコースもあります)

ただし、これらの講座ですが、会社が費用を出してくれるのであれば検討に値すると思いますが、そうでなければ(自腹であれば)費用対効果を考えるとどうでしょうかというのが正直なところです。


B.学習方針について
ご質問者が

1.5年分の過去問の目通し及び分析
2.数学→明解演習 数理統計(管理人様が丸もしくは三角をつけたところ)
     確率・統計・モデリング問題集
  生保→協会指定テキストの章末問題
  損保→例題で学ぶ損保数理
  年金→過去問だけで十分と言われたのですが本当でしょうか?
      管理人様が論評されてます黒田 耕嗣「生保年金数理〈1〉理論編」
培風館)は年金対策としては使えないのでしょうか?
  投資→過去問
3.時間を計って過去問を解く
4.知ってると便利な公式の暗記

(引用者注:「管理人様」とは私actuary_mathのこと)
と挙げられていました。

上記のとおり、ご質問者の方は社会人で他の資格試験(複数)に独学で合格しているので、勉強方法のツボを心得られているという気がいたします。
この学習方針は、私が皆様に推薦している方法と基本的には合致しており、是非ともお勧めしたい方法です。

2.の参考図書の部分についてのみいくつかコメントがあり、私から以下のように返信いたしました。


>       確率・統計・モデリング問題集
この本ですが、一部を見ただけなのですが、過去問題の傾向と乖離している問題もあるようですので要注意です。(それは1.の過去問分析で明らかになると思いますが)

>   生保→協会指定テキストの章末問題
>   損保→例題で学ぶ損保数理

これらについても同様で全部やる必要性はまったくありません。(特に生保数理の指定のテキスト*1)明解演習と同様にランキングをつけた表をなるべく早めに掲載したいと存じます。

>   年金→過去問だけで十分と言われたのですが本当でしょうか?
>       管理人様が論評されてます黒田
> 耕嗣「生保年金数理〈1〉理論編」(培風館)は
>       年金対策としては使えないのでしょうか?

過去問だけで十分というよりも、教科書・過去問以外の教材はどうも・・・(数学以上に(過去問との)乖離が激しい)というのが現状です。
「生保年金数理〈1〉理論編」については数学・生保数理(の基礎部分)までで年金数理には触れられていません。「生保年金数理〈2〉理論・実務編」(isbn:4563011126)には生保数理の応用の後に年金数理の記載があるのですが、教科書とは微妙に書きぶりが異なりまたその書き方もわかりやすいとはいえないので、却って混乱する恐れすらあると考えています。
他にも本があるのですが事情は同様です。

そのような本に手を出すくらいであれば過去問題を(年金数理については)5年分以上やるという手もかんがえられます。(ご存知のとおり退職給付会計制度は変遷していますが*2、年金数理のテキストはそのような制度の変遷にまったくついていっていません(平成元年の発刊以降、平成7年に一度改定があっただけ)。例えば、今の制度では「数理計算上の差異」と呼ばれるものが「過去勤務債務」として扱われていたりするので、一層理解を難しくしていると考えています。したがって、年金数理は1次試験のうち平成12年度の試験制度改定の影響を受けていない唯一の科目といえ、平成元年からの過去問題全部が利用価値があると考えます。)

あるいは、年金数理人会の試験問題
http://www.jscpa.or.jp/siken/indexs.html
の方が(解説がないですが)利用価値があるかも知れません。

と書くと年金数理は難しそうですが、なんだかんだで結局受かるべき人は受かっています。(私の周囲で、1次試験のうち年金数理だけ残している(orた)方はいません*3。)
年金数理の最大の難関は教科書の記述を「克服」することにあり、奥歯にものの挟まったような思いをしながらなんとか合格点をとって合格したという人が多い(少なくとも私はそうでした)のではないでしょうか?

なお、生保数理・損保数理・年金数理については、数学と同様の「参考図書」に関するエントリー(あまり「参考」にならない本も含めて・・・)をかんがえています。

>   投資→過去問
(この部分は、正しく釈迦に説法になってしまうのですが)これはまさしくそのとおりです。
巷では、証券アナリストの問題集や簿記2級を薦めたりする人もありますが、アクチュアリー試験とは傾向が違うのでまったく賛成できません。そんなことをするのであれば過去問題を研究したほうがずっとよいです。注意すべき点としては、会計制度が猫の目のように変わっている*4ので、過去問題を読む際にはそこに注意すべきことと、今年から各分野(会計・経済・投資)で4割以上とらないといけなくなったので、例えば(ご質問者様とは関係ないとは存じますが一般的な方法として)会計を捨てて配点の高い投資理論だけやるという作戦が使えなくなったという程度です。


なお、上記の返信にもあるように、生保数理・損保数理・年金数理については、数学と同様の「参考図書」に関するエントリー(あまり「参考」にならない本も含めて・・・)を予定しています。

*1:http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20080526 をご覧ください。

*2:ご質問者の取得資格などからそのような会計制度についてはご理解していると考えました。

*3:私の周囲での経験ですので、もしそれに該当する方がいらっしゃれば申し訳ありません。

*4:他にも投資理論で途中からデリバティブが入ったり、経済で今年からゲーム理論が入ったりといった微妙な変更があります。