アクチュアリーの就活と転活

●今回の要点

今、就活(就職活動)の季節であるが、大学側が留年の「支援」をする等異様な現象が生じている。だが、(アクチュアリー等の)転活(転職活動)では転職斡旋会社が仕事の候補を持ってくる等、就活とはすべてが逆転する。更には、未経験からの就職も可能なので諦めることなく就活・転活に臨まれたい。
(139字)

●「使用前」のご注意

(1)以下の内容の大半は、(一部の)業界関係者にはほぼ自明なものあり、「何を当たり前のことを書いているのだ!」とお叱りを受けるのかもしれないのですが、最近になって、どうやらそういう当たり前のことが当たり前とされていないのではないかというように思えてきたため、何卒ご容赦くださればと存じます。

(2)以下ではアクチュアリーのことを中心に書く*1のですが、クオンツ等他の職種でも同様なのではないかと考えます。このブログをアクチュアリー関係者*2以外の方がご覧になることは少ないとは思うのですが、就活されている方でもしそのような方がいらっしゃるとすれば、ご自身のフィールドで同じような道を探るヒントにしていただければ幸いです。

(3)また、転職の話を中心に書くのですが、転職そのものを積極的に進めているのではなく、
(新卒の)就活(就職活動)がうまくいかなくても、転活(転職活動)でいくらでも逆転可能
という趣旨なのをご理解くださればと存じます。
2010/3/21補足
なお、アクチュアリー採用自体の話は、いわき( http://twitter.com/s_iwk )さんがブログ
http://iwk.cocolog-nifty.com/blog/2010/03/post-dc90.html
で書かれました。
アクチュアリー採用を考えられている皆様は必見です。


●本文

前回
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20100317
から「日本の損保アクチュアリーの歴史に関する諸考察」シリーズを始めたばかりだったのですが、今回は1回お休みして、
アクチュアリーの)「就活」と「転活」
について考えてみたいと思います。


就職活動(就活)の真っ最中ですが、
「就活のために留年する学生支援  大学に広がる『卒業延期制度』」
http://www.j-cast.com/2010/03/17062498.html?ly=cm&p=1
などという「異様」ともいうべきが生じています。


かつて私も
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20100123

「学部を卒業してから1年間アクチュアリーの勉強に専念する」くらいであれば、「留年」してあくまでも「新卒」として受験するほうがまだいい

と書いたことがあるのですが、日本の「新卒」への拘りは尋常なものではないような気がします。


ところが、不思議なことにそのような「新卒」への拘りをはじめとする、
就活でのいくつかの「因習」は(少なくともアクチュアリーの)転職活動(転活)では全部逆転
します。


具体的に書くとこのようになります。

項目 就活 転活
既卒・留年への評価 既卒」になると大きなマイナス。留年も不利? 新卒へのこだわりは原理的にありえない。留年等もまったく関係なし。キャリアの年数がポイント
候補の見つけ方 リクナビマイナビ等のサイトから自分で探すのがメイン? 転職斡旋会社に登録すれば向こうから候補を持ってきてくれる(非公開求人も少なくない)。もちろん個人で探して応募することも可能
学歴 会社により考慮? ほとんど意味がない。
ES(エントリーシート 第一段階で課せられることが多く、「自己表現」を求められる。 存在しない。強いていえば自分のキャリアやもっている資格等(職務経歴書)を書いて転職斡旋会社に提出することが対応?ただし、個人の思想・心情にまで踏み込まない。
CV*3(履歴書・職務経歴書 所定の履歴書。手書きでないと駄目なところも? 履歴書というよりは「職務経歴書」。これまでの職務内容を記載。形式は特に問われないことが多い。もちろんPCで作成*4。電子メールでの提出も可であることが多い。転職斡旋会社に登録してある場合は斡旋会社から送付
WEBテスト 企業により採用(特に大手?)。替え玉受験が問題に 公正な評価にならないと分かっているものは実施しない。
筆記試験 アクチュアリー採用の場合は課される。 課されない。アクチュアリー試験合格科目数が筆記試験の代わり。
説明会 決まった時間に限定され、参加しないと次に進めないことが多い。競争が激しく予約がとれないことも 行わない。企業のほうもそこまでの時間がない。会社の情報ならWEBサイトやディスクローズ資料で研究すべき。転職斡旋会社に登録している場合、基本的な情報は斡旋会社を通じて教えてもらえる。
面接の日時設定 決まった時間に限定される。大学の日程など考慮されない場合が多い。 志望者の日時に合わせてくれる(志望者の現在の職場の人間に転職活動していることが悟られないように進めるのが大原則)。
資格 アクチュアリー試験合格科目数が当然最重要。準会員(1次試験全科目合格)以上が理想的だが科目合格でのエントリーもありうる。それ以外の資格では証券アナリストやTOEIC等の加点要素になる資格もあるが、マストではない。また、資格の「コレクション」は無意味。
実務経験 不問。むしろ変な「手あか」が付いていることを嫌う場合もある。 当然、重視されるが、経験なしでも不可能ではない
書類の書き方等 教えてもらう場合は有料 無料で指導してくれる
斡旋会社の収入源 掲載会社からの広告料?採用実績に無関係? 「成功報酬・具体的には採用者の年俸の一定割合」とされている。確実に言えることは、志望者からはお金をいただかない


こうしてみると、転活はなんとも志望者に優しい仕組み*5のように見えてきます。


この原因は、アクチュアリーへのニーズの増大にあります。
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20100123

http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20090430
でも述べてきたところですが、改めてまとめておきます。

(a)保険事業者の増加

2005年の保険業法の改正により、「根拠法のない共済」が保険業法の適応対象になり、少額短期保険業制度が創設されています。これにより、2010年2月25日時点で66社の少額短期保険業者*6が誕生(2010年3月19日現在生命保険会社*7が合計47社、損害保険会社*8が合計51社)
事実上すべての会社*9で保険計理人の設置が義務付けられています。
さらに、公益法人制度改革で保険(共済)事業を営む公益法人保険業法の適用対象となっています。(ただし、今国会で見直しの動きがありますが…)

(b)保険計理人の設置の対象となる損害保険会社の拡大

http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20090430
に書いたように、1996年の保険業法改正当初は「保険期間が長期で保険料や責任準備金算出に保険数理の知識・経験を要する保険契約(介護費用保険等)を取り扱う損害保険会社」だけが保険計理人の設置の対象だったのですが、現在では事実上すべての損害保険会社に拡大しています。
この対象の拡大により、新たに保険計理人の設置を必要とする損害保険会社(主に外資系)が増加しました。

(c)負債(・資産)の時価評価により、アクチュアリーの職務範囲の拡大

国際財務報告基準(IFRS)やEUのソルベンシーII(ローマ数字の2)の動きで保険負債(資産も)を時価評価しようとする流れがあり。そのような負債予測のためには、保険キャッシュフロー(保険料、保険金等)の将来予測がキーになりますが、そのような役割の担い手アクチュアリーの活躍が期待されています。


ここでは、保険についてのみ示しましたが、年金の分野でもアクチュアリーへのニーズが増大していることは確かです。


さて、
http://twitter.com/dongyingwenren/status/10608043404

いま坂本龍馬ばやりだけどさ。既卒だの留年だのだけで人事採用のまな板にも乗せないような現代の日本社会に龍馬がいたら、真っ先に白眼視されると思うけどな。そんな社会の良識を体現するような連中が「龍馬に学ぼう」とか言ってるのはギャグだと思う。

というTweetに対して、上記の事情を踏まえて
http://twitter.com/actuary_math/status/10668038766

ところが中途採用だと既卒だの留年だの無関係なのが日本の不思議なところなので、現在の坂本龍馬は高待遇でヘッドハントされるでしょう

と、ReTweetしたところ id:MarriageTheorem さんに
http://twitter.com/MarriageTheorem/status/10669784400

でも一度は「新規採用」される必要がありますよね…

というご意見を頂戴しました。
そのときは、 id:MarriageTheorem さんには
http://twitter.com/actuary_math/status/10692579086

http://www.elite-network.co.jp/x/j/tenshoku/voice_detail/?file_no=202&no=189
という例を出してご理解いただいた(と思う)のですが、そのような例はまだまだいくらでもあります


例えば、大手生命保険会社の第一生命保険でも
http://shoukai.type.jp/shoukaientry/job/111416.html?m=1&v=%E6%9C%AA%E7%B5%8C%E9%A8%93

【下記いずれかのご経験をお持ちの方】
◆金融業界でのアクチュアリー経験を有する方
日本アクチュアリー会の研究員*10以上の資格を持つ方
→準会員、研究会員の方も歓迎いたします。

とあるくらいです。


とはいえ、確かに未経験から、正規?の「就活」を経ない就職・転職に困難が伴うのも確かです。
ところが、アクチュアリー業界への入口は「大手」生損保・信託だけでは(ましてや、アクチュアリー採用だけでは)なく、実はいろいろなところに開いています


例えば、アクチュアリー会の賛助会員(法人会員)
http://www.actuaries.jp/intro/H21sanjo.pdf
の名簿を見ると、リクナビマイナビ等のサイトには掲載されていない会社も少なくないはずです。
もちろんそれらの会社は募集してなかったり、募集があっても少数だったりするのですが、それでも、「穴場」であることは間違いありません。
また、生損保会社等であってもアクチュアリー以外の職種で未経験者でも可という募集をしている例もあります。
そういう会社や職種からキャリア・アップを図る(もちろんその会社を隆盛させたり、その職種で活躍したりするという可能性もあります)という選択肢も(少なくとも留年等で「無為」に過ごすよりは)ありうるなのではないかと考える次第です。


今、保険業界への就活で苦まれている皆様がもしこのブログをご覧になっているとすれば、諦める前に、
これまで考えてもみなかった会社も含めいろいろな方面にコンタクトを取られること
をお薦めするところです。


<付記1>
(具体的な名前はここでは出さないですが、)いくつかのブログで起業とそれに絡めた日本社会論が取り上げられているようなので、
アクチュアリーの起業について」
も簡単に述べておきます。
以下に掲げるようにアクチュアリーが起業した会社は、最近特に増えつつあります

JPアクチュアリーコンサルティング株式会社
http://www.jpac.co.jp/aboutus/

株式会社IICパートナーズ
http://www.iicp.co.jp/

日本経営数理コンサルティング株式会社
http://www.e-jmac.com/

株式会社インズ・ビジョン
http://www.ins-vision.co.jp/

株式会社あすく数理人事務所
http://www.e-ask.biz/

キャピタスコンサルティング株式会社
http://www.capitas.jp/

アクタース株式会社
http://www.acturs21.com/

株式会社ブレイスアップ
http://www.braceup.jp/

株式会社リソース・ネット
http://local.yahoo.co.jp/detail/spot/e85659355e6ddad9146e0b1687c1387a/

合同会社 エース・ブレイン
http://www.acebrain.co.jp/

上記に述べたようなアクチュアリーの業務の広がりを考えれば寧ろ自然なことだと思います。これらの会社の業績については把握するすべはないし、ここでは起業の是非そのものを論じる気もないですが、一つだけ申し上げると、ここで挙げた方はアクチュアリーとして保険会社・信託銀行・コンサルティング会社等でそれなりの経験を積まれた後で独立された方ばかりでおり、未経験から起業された*11例は寡聞にして存じません。


<付記2>
この記事を書いているときに福井信英さん( http://twitter.com/fukui_dayo )が
「『転職力』を確認するためのふたつの問い」
という記事
http://fukui.livedoor.biz/archives/2909879.html
を出されているのに気付きました。
「人材紹介は、ごく一部」という部分ですが、少なくともアクチュアリーの転職では「人材紹介」の方が多いのではないかと考えます。
それはともかく、
「コネ」・「縁故」が強力である
というご意見には賛成です*12
アクチュアリーの世界は、そのような「縁故」を、例えば、アクチュアリー会や業界(生命保険協会、日本損害保険協会)等のセミナー・勉強会で作っていくという手もあるのですが、今や、ブログやTwitter等のオンラインで「コネ」・「縁故」を作っていくことも可能です(このあたりについては別の機会にお伝えしたいと思います)。

*1:専門外のことは軽々に論じられないので

*2:検索エンジン等のBOTS

*3:Curriculum Vitae の略

*4:手書きで書くとPC使えないのかと誤解される恐れもあります。

*5:ある意味こちらのほうが正常で、「就活」のほうが狂っていると思うのですが…

*6: http://www.fsa.go.jp/menkyo/menkyoj/shougaku/shougaku.pdf

*7: http://www.fsa.go.jp/menkyo/menkyoj/hoken.pdf

*8: http://www.fsa.go.jp/menkyo/menkyoj/songai.pdf

*9: http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20090430 の脚注のとおり「日本地震再保険株式会社」だけが例外

*10:原文ママ。「研究会員」でしょう

*11:業界未経験でアクチュアリー試験に合格することがそもそも(不可能とは言えないまでも)困難なのですが…

*12:会社にとっては「縁故」採用の方が転職斡旋会社にフィーを支払わなくて済むという利点があります。