アクチュアリー試験における複合分布の利用(2:最終)

今日は前回
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20091028
に引き続き1998(平成10)年の過去問を複合分布という観点で考えてみます。


(問題)
「ある土壌において時点n(n=0,1,2, \cdots)におけるバクテリアの数は確率変数X_nで与えられるとし、時点0における初期値X_0は平均\muポアソン分布に従うとする。
今、時点nn+1の間にバクテリアの数の変動は次のとおり起こるものとする。
i)バクテリアのひとつひとつは確率q(=1-p)で独立に死滅する。
ii)新たに発生するバクテリアの数は平均\mu(1+p)^nポアソン分布に従う。なお、時点nn+1の間に発生したバクテリアは時点n+1を超えるまでは死滅しないものとする。
上記以外の要因によるバクテリアの数の変動は起こらないものとし、またバクテリアの発生と死滅は独立に起こるものとする。このとき、X_nの分布を求めよ。」


この問題も複合分布の知識を使います。
まず条件のi)から、各バクテリアの1年後の生存確率はpであることが分かります。
したがって、
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20081120
の命題(1)によりバクテリアの数Mが平均mのポワソン分布に従うとすると1年後のバクテリアの数Sは、平均mpのポワソン分布に従うことが分かります。


そこで時点1,2の平均を見てみます。
時点1のバクテリアの数の平均
=時点0から時点1まで生存するバクテリアの平均+時点0〜1で新たに発生するバクテリアの数
p\mu+\mu(1+p)^0=\mu(1+p)
時点2のバクテリアの数の平均
=時点1から時点2まで生存するバクテリアの平均+時点1〜2で新たに発生するバクテリアの数
p\mu(1+p)+\mu(1+p)^1=\mu(1+p)^2
このことから、時点nの平均は、\mu(1+p)^nと予測できます。
また、分布の形状については考えていなかったですが恐らくポワソン分布と想像がつきます。


以下数学的帰納法
X_nは平均\mu_n=\mu(1+p)^nのポワソン分布に従う・・・(*)
ことを証明します。


(証明)
1.n=0のとき、問題文の条件から(*)は成り立つ。
2.n = k \, (k \ge 0)のとき、(*)が成り立つとすると、
(1)時点kから時点(k+1)まで生存するバクテリアの数Y_{k+1}p\mu_k=p(1+p)^kのポワソン分布に従う
(2)時点kから時点(k+1)までの間に新たに発生するバクテリアの数Z_{k+1}(1+p)^kのポワソン分布に従う。
(3)X_{k+1}=Y_{k+1}+Z_{k+1}かつY_{k+1}Z_{k+1}は、独立であることから、X_{k+1}は、平均p(1+p)^k+(1+p)^k=(1+p)^{k+1}のポワソン分布に従う。
つまりn=k+1においても(*)が成り立つ。
3.上記1.及び2.により数学的帰納法により(*)が成り立つ。(証明終わり)