(アクチュアリー)損保数理と「宗教のようなもの」

(使用上の注意)
今回のエントリーは、アクチュアリー試験の損保数理の合格には何の役にも立たず、むしろ今後受験を考えられている方には「有害」なものになるかも知れないので、該当される方はそのことにご留意の上お読みください。


はてなダイヤリーには「おとなり日記」という機能があって、キーワードなどからの連関で(?)いくつかのブログが表示されることがあります。


本ブログの特殊性からか(?)、大抵は本ブログの内容と関連性の低い(ポワソン分布など表面的な用語のつながりだけでリンクされている)ことが少なくないのですが、 id:unagiame さんの「反抗的ブログ」というのがヒットし、
金融工学を習得し、破壊し、再生するための本セレクション」
http://d.hatena.ne.jp/unagiame/20100110/1263119489
というエントリーがなかなか考えさせられるところが大きかったのでのでご紹介しておきます。



http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20091119
にも申しましたが、「保険料算出原理」のように損保数理(損害保険数理)にも金融工学を適用しようという動きはあります。
ただし、それらは実務の相当先を行っているもので、完成された理論とは言えないと考えています。


金融工学を習得し、破壊し、再生するための本セレクション」
では、
「例えば、金融日記の藤沢数希さんが言ってる*1ように、効率的市場仮説は宗教みたいなもんです。」
とありますが、
損保数理でも、上記のような「最先端」の部分はもちろんのこと、
実務で当たり前のように使われている基礎となる部分で既に「宗教みたいなもん」が入り込んでいる
可能性があります。


例えば、損保数理では、
純保険料=事故発生率×(1事故あたりの)保険金(平均損傷度)
として考えることが多いです。


このうち事故発生率については
事故発生率=事故件数÷契約件数
を推定量とし、それをパラメーターとするポワソン分布として捉えることは、例えば2項分布の極限としてポワソン分布が考えられることにより正統性を見出すことは必ずしも無理なことではないと考えます。*2


一方、(1事故あたりの)保険金(平均損傷度)については、正規分布、対数正規分布、ガンマ分布(指数分布を含む)、パレート分布等の確率分布に当てはめて考えることが多いですが、
これらの分布に当てはまるということが理論的に証明されてはいないはずです。(少なくとも証明されたという情報を寡聞にして知りません。)
あくまでも数学的な取扱の容易さから選ばれているものと理解しています。*3
当然選んだ分布に適合するかどうかを統計的に検定したりはすることもあるのですが、そこで棄却されないからといって、その分布が理論的に正しいことが証明されたわけではないことは論を待たないでしょう。


http://twitter.com/actuary_math/status/7428051888

「(アクチュアリーの仕事内容は)『外はミディアム中はウェルダン』つまり数学「等」の論理で固めた保険料、負債評価等を数学を(あまり)知らない方にどうご納得頂けるかが鍵」
と書いたことがあるのですが、実際のところ本当の中心は「レア」と言うべきなのかも知れません。


アクチュアリー試験を最後に損保数理から離れる場合は、そのような側面は捨象して純粋に数学の問題として考えれたほうがむしろ効率的と考えられますが、損保数理を実務で活用しようという奇特な方におかれましては上記のような
理論の足元
について一度思いを馳せてみることも悪くないかも知れません。

*1: http://blog.livedoor.jp/kazu_fujisawa/archives/51223934.html などのことだと考えられます。

*2:大規模自然災害などではこのような捉え方が必ずしも有効ではないのですが、それはここでは置いておくことにします。

*3:正規分布については中心極限定理という理屈付けが可能かも知れませんが、独立かつ均質な損害が多数発生するというその前提が成り立たない場合も少なくありません。