SOA(Society of Actuaries)試験について

今回は前回
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20100704
取り上げたCERA(Chartered Enterprise Risk Actuary/Analyst)の流れで、
SOA(Society of Actuaries;米国(生保)アクチュアリー会
の試験について触れたいと思います。


本ブログでは、当然ながら日本のアクチュアリー試験の情報がほとんどすべてなのですが、日本以外の国とりわけSOA(Society of Actuaries;米国(生保)アクチュアリー会)の試験に関してコメントを求められることがあります。
私は、問題等は拝見したことがあるのですが、実際に受験したことがないため、どうしても外形的なアドバイスになっていました。
今回、実際に受験されている方(以下Aさん)から受験体験記のご提供をいただきました。今回は、それをAさんのご快諾をいただき、本ブログに転載させていただきます(Aさんのご確認は受けていますが、転載者による編集が入っていることはご了解ください)。
SOAの試験を考えられている皆様に少しでもお役に立てれば幸いです。

SOA試験の概要

体験記の前にSOA試験について簡単に述べておきます。
(詳細は
http://www.soa.org/education/exam-req/
等をご確認ください)

(a)ASA(Associate of the Society of Actuaries;日本の「準会員」に相当)

のためには、
前回
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20100704
引用した
twitterid:actuaryjp
さんが挙げてくださったもののうち1.〜4.の
(1) Exam P,FM,MFE,C
と6.の
(2) VEE(Validation by Educational Experience) Economics
の他、
(3) Exam MLC(Actuarial Models–Life Contingencies Segment)
(4) VEE Corporate Finance
(5) VEE Applied Statistics
(6) Fundamentals of Actuarial Practice (FAP) e-Learning Course
(7) Associateship Professionalism Course (APC)
が必要になります。


VEEについては、大学の所定の講座
http://www.soa.org/files/pdf/edu-vee-dir-approved-courses.pdf
(588ページ!のPDFファイルなので要注意)
を取得することが求められますが、
日本のアクチュアリー会員の場合は(2)と(5)を、証券アナリスト協会検定会員の場合は(2)のマクロ経済学(ミクロは別途履修が必要)と(4)をクリアできます。(つまり、アクチュアリー会員+証券アナリストであればVEEはクリア)
http://www.soa.org/education/exam-req/resources/edu-vee-approved-courses.aspx
(2010/7/8 この項修正)


試験は多肢選択式です。以下の体験記にあるように(日本以上に)大量の問題が出題されます。

(b)FSA(Fellow of the Society of Actuaries;日本の「正会員」に相当)

準会員の要件に加え
(1)5コース別の専門科目2科目の試験
(2)5コース別のモジュール(e-Learning)
(3)各コース共通のDecision Making and Communication (DMAC) Module
(4)Fellowship Admissions Course (FAC)
が必要になります。

(c)日本のアクチュアリー試験との比較等

下の体験記にもありますが、CBT(Computer Based Test)の各科目は年4〜5回、それ以外の科目でも年2回(5月と11月)にあり受験機会が多いのは日本のアクチュアリー試験よりよい点ですが、半面e-Learningを含めた科目数が多くかつ1科目あたりの受験料が高い点は要注意です。

現在、SOAの会員になっている日本人は、
https://www.actuarialdirectory.org/solutionsite/default.aspx?tabid=123#_ctl0__ctl0__ctl0_tbl
の検索結果によると*1正会員・準会員合わせて50人に満たないですが、これらの方の"Organization"を中心に
評価されるところでは評価される
ものと考えられます。


前置きが大分長くなりましたが、ここからAさんの受験体験記の転載です。

1.SOA試験のよい点と注意点

SOA試験のよい点と挑戦する場合の注意点です。
この試験は最初の2科目はCBTで*2受験料も各175ドルと気軽に始められる(CBT試験なので、10日間くらいの受験可能期間がExam Pは来年は年5回、1月・3月・5月・7月・9月にあり、Exam FMは年4回、2月・5月・8月・12月にある)のですが、じつは、後半に行くにつれ、ちょっと蟻地獄のようなところがあります。
通信教育を受けないと資格がもらえないのですが、この通信教育にも試験があります。ので、見かけより試験の数は多いです。しかも、後ろのほうのテストほどやたら受験料が高くなります。例えば、ASAになるための要件にある通信教育の最後にオンラインで提出する論文試験の受験料は1,200ドルです。(ゼロの数は2つです。間違えていません)
FSAになるための試験の受験料も非常に高価で、2科目あって一科目の受験料が 950ドルです。

というわけで、ストレートにいっても最後にFSAになるまでにSOAに8,000ドル以上払い込むことになります。そのあとの年会費も高いです。補助をくれそうな欧米系の保険会社に所属せずに受け続けるのは辛そうです。他の業界には知られていませんし、(転載者追記US)CPAのようにとっておけばどこの業界でも役に立つことがある、という資格ではないことは確かです。

2.Exam PとExam FM

どちらも、Society of Actuariesが公開するサンプル問題をすらすら解けるようになれば、合格は間違いなしとされています。逆に、3時間で30問(Exam P)と35問(Exam FM)と1問あたり5−6分しかないので、解法をその場で考えこんでいる暇はありません。*3

Exam Pのサンプル問題 (最初のほうはすごーく簡単だけど、だんだん難しくなります。)

http://www.soa.org/files/pdf/edu-2009-spring-p-ques.pdf

Exam FMのサンプル問題

http://www.soa.org/files/pdf/FM-09-05ques.pdf

なので、それを2ヶ月後のゴールにして、たくさん発売されているこの試験に特化した受験参考書の中から評判のいいものを選びました。
Actuarial Discussion Forumという掲示板を参考に、選んだのは、ASM社のStudy Manual。Exam P用とExam FM用をそれぞれ買いました。スタディマニュアルというのは、試験範囲の簡単な解説と、頻出問題パターンの解法、演習問題が入った参考書です。

ところが、ASM社のExam FM用のは確かに、素晴らしいマニュアルで、これ一冊でよかったのだけど、著者が異なるExam Pのほうが自分には難しすぎました。ポーランドから来たらしい博士が書いてるのだけど、英語の文章もよくわからないし、オリジナルの模擬試験も全然解けない・・・。

そこで、Exam Pに関しては「一番易しい、易しすぎるかも」という評判のYufeng Guoという中国人の書いたStudy Manualに鞍替えすることにし、即購入、即ダウンロードして、こちらで勉強を再開しました。

確かにこっちは易しかったのです。Guo(グオ)さんは中国で弁護士をやっていたのだけど、アメリカに来ることになって、それから言葉の壁の少ないアクチュアリー試験に挑戦したのだそうです。なので、このマニュアルの売りの1つは「簡単な英語」です。「確率統計を履修してなくても大丈夫」という宣伝にも惹かれました。

おかげで、指数分布とポワソン分布とガンマ分布のつながりや、負の二項分布と幾何分布の関係なんてのがわかるようになりました。 便利な電卓の機能や、時間節約のための裏技もいっぱい載っていて、本当にお得感のあるマニュアルでした。

で、マニュアルを読みおえ、サンプル問題も全部解いてるうちに3周目にはPは9割以上、FMは100%、自信をもって正答できるようになりました。

Exam FMとExam Pは茅場町のプロメトリックのPC上で受験。レベル感はもちろん、サンプル問題と同じでした。
この2つの試験は、当日にpreliminary resultといってpass かfailか教えてもらえます。preliminary resultがpassなら間違いなく合格。failならものすごく小さい割合で合格している可能性もある、とのことです。

3.数学の参考書について

高校の参考書から再出発することとし、高校の参考書を本屋で端っこから確認することにしました。数Iは見ればわかった。数IIがやっぱりあやしい。で、数IIからやりなおすことに。
以下が、具体的な試験勉強に入る前の約半年間でやった参考書たちです。
基本的に例題は全てなぞり、演習問題は全部ときました。

高校の数学

・坂田アキラの数IIの微分積分が面白いほどわかる本(転載者注:isbn:4806127396

・坂田アキラの三角関数・指数・対数が面白いほどわかる本(転載者注:isbn:4806128325

・坂田アキラの数IIIの微分積分〈極限・微分編〉が面白いほどわかる本(転載者注:isbn:4806122939、パワーUP版は、isbn:4806132357

・坂田アキラの数IIIの微分積分積分編〉が面白いほどわかる本(転載者注:isbn:4806123250、パワーUP版は、isbn:4806132365

高校の数学と大学レベルの数学との架け橋

石村園子「やさしく学べる微分積分」 ←本当にやさしく学べた!!(転載者注:isbn:4320016335

石村園子「やさしく学べる線形代数」(転載者注:isbn:4320016602

石村園子「やさしく学べる統計学」(転載者注:isbn:4320018087

石村園子「やさしく学べる微分方程式」←シリーズが気に入ったので、ここまでやったが、後で考えるとExam PとExam FMの試験範囲とは関係なかった・・・。(転載者注:isbn:4320017501*4

・マセマ「スバラシク実力がつくと評判の微分積分キャンパス・ゼミ」←この時点にはちゃんと分かるようになった(転載者注:isbn:4944178204

大学レベルの確率・統計

東京大学教養学部統計学教室「統計学入門」←統計学の話が読み物として面白いと思い始めた!ただし、試験まで時間がなくなってきたので、この本の演習はやらず。*5

・小寺 平治「明解演習 数理統計」←Exam Pの試験範囲の77ページまでやった。明解っていうけど、結構むずかしいです・・・。*6

途中、友達に励ましの言葉をもらったので、何度も読み返せるように手帳に書きました。

「数学は運動神経だ!昨日走った道をまた走ればいい。するとだんだん速くなる。同じことを10回やると、11日目には新たな道を切り開けるよ。」

4.MLCの感想

3科目目はMLCを受けることにしました。
結局、2回受けるはめになったのですが、まず1回目のあとにメモった感想がこちら。

SOAが理解度を試験合格という形で評価する以上、ちんたら教科書の証明問題なんかで時間をつぶさずに、さっさとスタディノートのサンプル問題(=ほぼ全て過去問282題)の演習を開始すべし。理解するだけでなくて、やっぱり相当練習をしないと、3時間30問の問題はきつかった。

・ 試験自体は、具体的な数値を問う計算問題がほとんど。で、サンプル問題をやってみると保険数理って実はシンプルな話なんじゃないの?ということがわかる。半分くらいの問題が、金利と確率で割り引くともらうお金と払うお金は一緒でなくっちゃね、という式を組み立てるだけっぽい。でも、本番でイチからそれをやる時間はないので、やっぱり頻出公式は覚えないといけない。

・ 私のように時間をかけすぎてはいけないけれど、でも、教科書Models for Quantifying Risk は結構わかりやすくて良かった。特に「死力」の説明が日本の教科書とは違うやり方で超わかりやすい。生命表の世界だけでなく、いろんな確率分布にも応用で
きる感じ。今度、暇なときに紹介してみようと思います。

・ GuoさんのMLCマニュアルはいまいちだった。良かったのはPのマニュアルだけ。

・ 東京の試験会場はボランティアの人が少人数の受験者のために運営してくれている。開場時間の遅れなど多少のことがあっても感謝の気持ちで受けとめよう。

その後、2回目は、ASM社のマニュアルを新たに買って便利な公式をいくつか仕入れ、サンプル問題を30問ずつ3時間、模擬試験のように時間を測ってやることでスピードアップを図ったのが功を奏したように思います。


参考サイト
http://www.beanactuary.org/

Actuarial Outpostというサイトの掲示
http://www.actuarialoutpost.com/actuarial_discussion_forum/index.php

以上

*1:シフトキーで複数指定が可能とありますが、FSAとASAで別々に検索しないと表示されない模様なので要注意です。

*2:転載者注:Exam PとExam FMのことと考えられます。その他、Exam CもCBTです

*3:転載者注:これは日本のアクチュアリー試験も同様です。

*4:さらに転載者注:微分方程式の知識は、日本のアクチュアリー試験だと生保数理では必要になってきます。微分方程式は、現在の高校数学では範囲外になっていますが、これはいかがなものかと思います。

*5:転載者注:この本は日本のアクチュアリー試験の数学の指定教科書です。 http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20090929 参照

*6:転載者注:この本は日本のアクチュアリー試験の数学でよいといわれている本です。ただし、日本のアクチュアリー試験の観点でいえば、問題を選択して取り組む必要があります。SOAの試験でも同様と考えます。 http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20090929 参照