アクチュアリー試験と九九

前回
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20081118
指摘した、
mimetexの不具合は解消された
http://i.hatena.ne.jp/idea/21770
ようで何よりです。


mathtexの導入が見送られたのは残念ですがとりあえずは、数式が中途半端に表示される不具合はなくなったのでよしとしましょう。


この状態が長く続くようなら
http://actuaries.press9.net
のほうでmathtexへの対応(正確にいうと
http://www.forkosh.dreamhost.com/source_mathtex.html
で作ったイメージを内部にストックしておくもの。具体的な方法についてはまた機会を改めてご紹介いたします。)ができたのでそちらに移行しようかとも考えていたのですが、まだしばらくはこちらで書くことになりそうです。


それはともかく、今日は「アクチュアリー試験と九九」というタイトルをつけました。


このようなタイトルをつけたのは、アクチュアリー講座(多分日本アクチュリー会の公式の講座だと思われます)で講師をなさっている大学教授が、
「確率変数*1の平均、分散、積率母関数は、1秒もかかったらだめ。九九と一緒で、それができないのに過去問をやるな」
の趣旨のようなことをおっしゃったとあるブログで見かけたからです。
(そのブログのURLはあえてここでは触れません。)


以下この言葉に対する私の考えです。


アクチュアリー試験(だけではないのですが)の「知識」には
(1)試験によく出て覚えやすい
(2)試験にはあまり出ないけど覚えやすい
(3)試験によく出るが覚えにくい
(4)試験にはあまり出ないし覚えにくい
の4種類があります。


(1)は、がんばって覚えましょう。
(2)は、余裕があったら覚えましょう
(4)は無視するしかないでしょう。


問題は、(3)の扱いですが、
(a)何とか記憶量を少なくてすむ形(試験本番で再生できる形)にして覚える。
(b)それも無理な場合は、試験直前に(一夜漬けに近い形で)暗記
という方法が考えられます。


もっとも、普段の学習で「九九」のように徹底的に覚えればいいのですが、少なからぬ受験者が時間不足で中途半端な形で終わってしまいます。


そもそも、アクチュアリー試験に「よく出る」かどうかは教科書・参考書には書いていない(前 http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20080526 にも述べましたが、教科書・参考書の大半はアクチュアリー試験のために書かれたものではありません)ので、過去問題を自分で見るしかありません。


だから私は
なるべく早めに過去問題を『見る』(「解く」のではないです)べし
と主張しているところです。


一つ例を挙げましょう。
皆さんは対数正規分布というものをご存知でしょうか?
今、アクチュアリー会で指定されている教科書・演習書のいくつかにはまったく記述がないのでご存知ない方もいらっしゃるかも知れません。
ある年度の試験で(対数正規分布とは言わずに)、確率変数X確率密度関数
f(x)=\frac{1}{\sqrt{2\pi}\sigma x}\exp \{ \frac{-(\log x-\mu)^2}{2\sigma ^2} \} (x>0)
であるとして、平均・分散を求めよという問題が出たことがあります。


この問題は、
X=e^Y(ただし、確率変数Yは、平均\mu、分散\sigma ^2正規分布に従う確率変数)
という事実を知った上で、正規分布積率母関数を使って解くのが、セオリーとなっています。
(答えは、
E(X)=\exp(\mu+\frac{\sigma ^2}{2})
V(X)=\exp(2\mu+\sigma ^2) \{ \exp(\sigma ^2) -1 \}
です。)

このセオリーを知らずに頭から解いた場合
10分
http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20080815 をご参照ください。)
で正解を出すことは、まず不可能です。
対数正規分布の平均・分散を覚えていなくても正規分布積率母関数と上記のセオリーさえ知っていれば、この問題を「1秒」は無理でも10分以内に解くことは可能です。


確率論や統計学の研究者を志望される方であれば、それこそ「対数正規分布の平均、分散、積率母関数」も「九九」のように暗記しなければならないのかも知れませんが、そのような方はもとよりこのブログの対象とするところではありません。


それよりは試験に出る確率が高いのが、1〜6までのサイコロの目が等確率(つまり\frac{1}{6}ずつ)で出る確率変数の分散です。
(平均はすぐに分かるでしょうから省略します。ちなみに答えは\frac{35}{12}になります。)
もちろんこれも覚えておけば得だといって程度の事項です。


もっとも、以上は(アクチュアリー試験受験及び指導を経験した)一個人の私見であり、大学教授のおっしゃるように基本事項を「九九」のように徹底的にマスターする(ただし、対数正規分布の平均・分散・積率母関数が「九九」とすれば、それに匹敵する事項は9×9=81個ではすみませんが)というのも一つのやり方です。


あと1ヶ月余りになってどのような方法を選択されるのかは、当然ながら(現在の習熟度とこれからかけられる時間を勘案して)、皆さんご自身の自由と責任で行うべきものです。


次回からは、(本当はもう少しあとでやるはずだったのですが)すぐに覚えられてそれなりに試験にも出てくる知識をとりあげたいと思います。

*1:原文では「確率関数、確率密度関数の」となっていましたが、「関数」には「平均」は存在せず、「平均」が存在するのは「確率変数」のはずなので、そのように表記しています。