アクチュアリー試験受験の知恵(2)

今回は消去法の使用について考えてみましょう。

消去法では、他の選択式問題や択一式のクイズなどでは当然のように皆さん使われている手法だと思われます。

ここでは過去問から以下の問題を取り上げます。

確率変数X,Y,Zが独立にそれぞれ一様分布U(0,2),U(-1,1),U(-2,0)に従うとき、
S=X+Y+Zの密度関数は、
\left{ \begin{array}{cc} \fbox{1} & (-3 \le s \le -1) \\ \fbox{2} & (-1 \le s \le 1) \\ \fbox{3} & (1 \le s \le 3) \\ 0 & (otherwise) \\ \end{array} \right.

である。
(A)\frac{(s+3)^2}{4} (B)\frac{(s+3)^2}{8} (C)\frac{(s+3)^2}{16}
(D)\frac{(s-3)^2}{4} (E)\frac{(s-3)^2}{8} (F)\frac{(s-3)^2}{16}
(G)\frac{3+s^2}{4} (H)\frac{3+s^2}{8} (I)\frac{3+s^2}{16}
(J)\frac{3-s^2}{4} (K)\frac{3-s^2}{8} (L)\frac{3-s^2}{16}


本問は、2変数ずつの確率変数の合成で計算できるのですが場合わけが意外に面倒です。ここでは、そのような計算をせずに消去法で答えの候補を絞りこんでみます。

何も考えずに選ぶと(一応同じものは2度選ばないとして)
_{12}P_3 =1,320通りの可能性がありますが、以下の考察で2通りまで絞り込め、かつその2通りのうち蓋然性の高いものが1つだけ残ります。(実際にそれが正解)

1.まず、問題文に設けられた最初のハードルをクリアします。
X'=X-1Z'=Z+1
とおくと、X',Y,Z'は独立で同じ一様分布U(-1,1)に従います。
また、S=X'+Y+Z'であり、U(-1,1)は左右対称な分布なので答えも左右対称になることが分かります。

左右対称ということを考慮すると
(ア)\fbox{1} - \fbox{3}の候補の組み合わせは順に
(A)-(D)、(B)-(E)、(C)-(F)
の3通り
(イ)\fbox{2}の候補は
(G)〜(L)
の6通り
となり、この時点で答えの組みあわせの候補が3*6=18通りになります。

2.次に
「密度関数を(非0な)全区間(この場合は-3 \le s  \le 3だけで十分)で積分すると1になる。」

という確率変数の基本性質を利用します。
(ア)(A)の-3 \le s  \le -1での積分値は、
\int_{-3}^{-1} \frac{(s+3)^2}{4}ds=[ \frac{(s+3)^3}{12} ]_{-3}^{-1}=\frac{2}{3}
(D)の1 \le s  \le 3での積分値も\frac{2}{3}
同様に
(B)の-3 \le s  \le -1での積分値=(E)の-3 \le s  \le -1での積分値=\frac{1}{3}
(C)の-3 \le s  \le -1での積分値=(F)の-3 \le s  \le -1での積分値=\frac{1}{6}
(イ)(G)〜(H)の-1 \le s \le 1での積分値は、それぞれ
\frac{5}{3}\frac{5}{6}\frac{5}{12}\frac{4}{3}\frac{2}{3}\frac{1}{3}

このことから、3つの組み合わせの合計で1となるのは、\fbox{1} - \fbox{2} - \fbox{3}の順に
(1)(B)-(L)-(E) (\frac{1}{3} + \frac{1}{3} + \frac{1}{3}=1
(2)(C)-(K)-(F) (\frac{1}{6} + \frac{2}{3} + \frac{1}{6}=1
のいずれかになります。

さて、この2通りのどちらが正解なのでしょうか?
2つのグラフを描いてみるとそれぞれ
(1)
http://f.hatena.ne.jp/actuary_math/20080718194236
及び
(2)
http://f.hatena.ne.jp/actuary_math/20080718194235
となります。

ここで、グラフが「つながっている」(2)のほうが正解であるということは感覚的にお分かりになるかと思われます。
実際にそれは次の命題が成り立つため正しいです。
(命題)
X,Y確率密度関数f(x),g(y)をもつ独立な確率変数で、f(x),g(y)はほとんどいたるところ連続(*)とする。さらにf(x),g(y)の少なくとも1つが有界であるとき、
S=X+Y確率密度関数h(s)は全区間で連続」
(この命題の証明はちょっと難しいのでまた別の機会にいたします。)

(*)「ほとんどいたるところ連続」の定義はここではいたしませんが、有限個の点で不連続であっても「ほとんどいたるところ連続」という条件は満たします。
f(x),g(y)に有限個の「切れ目」があってもh(s)には切れ目がなくなるというのがポイントです。

したがって消去法により\fbox{1} - \fbox{2} - \fbox{3}の順に
(C)-(K)-(F)
以外にはありえないことになります。

これは消去法が一番うまくいった例ですが、ここまでうまく行かなくても大幅に絞り込める例は他にも存在します。